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題として浮上しているのである。

 

2. リサイクルの文明と文化

 

文明とは、人間・装置系の技術・制度がつくっているシステムで、必ず実体を伴う。したがって、現在のリサイクルが文明系としての成熟を目指していることは明らかで、これが地球生態系に厳然と存在するサイクル(cycle;例えば物質循環)を補完するか否かが重要な判断尺度になる。

サイクルとは、自然のある状態が変化してふたたび元の状態に戻ってくる時間周期を意味し、この周期を直接間接に定めているのは太陽エネルギーと土壌微生物である。

サイクルの原理を論じるには、農業肥料問題の考察が欠かせない。肥料の原型は遅効性を前提にした刈敷の利用で、近世の農機具改良による近郊農業の発展が魚肥の需要を増大し、その補完として屎尿の農村還元を定着した。

工業的なリサイクル(re-cycle)が最初に使われたのは、アンモニア合成の収率を高めるために工程の終端から未反応分を原料中に戻した化学的サイクルであった(Fritz Haber;1913)。この場合も周期性がなお重要な意味をもつ。つまり“re”なる接頭語には、化学反応速度を基準とした工程の構造と循環エネルギーの設計が含意されている。そしてアンモニアは合成肥料の主役となった。なお液体アンモニアの代替品がフロンである。また現在の汚水処理の中心である活性汚泥法でも、水中微生物群の未反応分を原水に返送するリサイクルが処理効率と処理時間を左右する重要因子になっている。このように、われわれの生活とこれを支える生産工程には、すでにリサイクルが多重に内包されている。

しかるに現在のリサイクルの必要理由は、生活・生産の「未反応分」的ではあるが、廃棄物の大量性に基点があって、サイクル性や遅効性(経済的roundabout(迂回)性)、換言すれば最適投入エネルギー量とリサイクル速度の調和の問題が抜け落ちたままになっている。4億トン超の総廃棄物に適用すべき完全リサイクル技術の移転は不可能ではないが、GDPと同じオーダーの奇怪な市場を夢見ることになる。ここに、実体は見えにくいけれども、人間行動を律する精神的・社会的価値体系を再構築する「文化としてのリサイクル」への視点をもつべきことが課題となる。今回の記念事業が自画自賛型ではなく、日本財団の厳しい審査を含めて他者評価の観点をもっているのは、このような背景にもとづいている。

 

3. リサイクル劇場都市

 

 

 

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