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エクソン・バルディーズ号原油流出事故以前の法律と油濁法

(Oil Pollution Act of 1990)

 

エクソン・バルディーズ号原油流出事故のおきた1989年3月以前では、油流出事故に際しての対応と役割、事故後の自然環境に与える影響についてのアセスメントと現状復帰に関する以下の二つの法律が最も重要なものとされた。連邦政府水質汚染管理に関する法律(1971)を改定した連邦水質管理法(Clean Water Act of 1977)と、1980年制定、1986年に改定された「包括的環境への対応および補償、債務に関する法律」、通称スーパーファンド法(Superfund Act)である。

 

連邦水質管理法(Federal Water Pollution Control Act)

連邦水質管理法の中に、国家緊急時計画の作成義務について述べた条項がある。国家緊急時計画には国家対策体制について記載している部分がある。国家対策体制とは、環境と人間の健康に及ぼす害を最小限にとどめるため、そして油流出管理と油回収作業を能率よくかつタイムリーに行うための専門知識と方策を共有する現地、州、連邦政府単位のネットワークのこと。国家緊急時計画には国家対策体制が様々な役割において適切な計画考案と調整をするための処置が記載されている。エクソン・バルディーズ号事故での問題点のひとつは、国家緊急時計画の演習不足と油流出事故が大災害となった場合の職権の任命が曖昧であったことにある。それらの問題点をクリアするため、OPA90は国家緊急時計画の大幅改定を強いられた。

国家対策体制の中心の構成要素は、エクソン・バルディーズ号事故以前では、OSC、地域対策チーム、国家対策チームの三つであったが、現在ではそれらは修正、追加されている(尚、以下の説明は現在の役割について述べる)。

 

連邦現場統轄指揮官(FOSC)

ひとりが、全部で48ある指定沿岸地域の中のひとつを任され、任務は、連邦政府との調整や現地、州、地域対応社会への援助と情報提供が主である。援助が必要な場合にはOSCが必要な手段を講じ、油流出事故補償信託基金へのアクセス権も持つ。

 

地域対策チームRRT)

全米13地域を担当、州・連邦政府の代表で構成される地域対策チームは直接現場で事故に対応することは無いが、現地で対応しきれない場合、必要とされれば技術的なアドバイスと手段を提供する。

 

国家対策チーム(NRT)

このチームは14の連邦政府省庁の代表からなる。地域対策チームと同じように直接現場で事故に対応することは無いが、地域対策チームが対応しきれない場合の技術的アドバイスと調整補助を迅速におこなう。

 

油濁法(OPA90)における連邦水質管理法の修正個所

OPA90における連邦水質管理法の修正個所は以下の通り。

 

油回収作業の指示に関する大統領権限の拡大

エクソン・バルディーズ号事故では、船主であるエクソン社が油回収作業の指揮権をとった。このことについて、連邦政府が指揮権をとるべきだという批判もあった。事故以前には、連邦政府がエクソン・バルディーズ号のような大事故の場合でも油回収作業の指揮権を船主/操船者、又は施設に任せてしまう場合があったが、現在ではOPA90の制定により、一般大衆や環境に与える影響が大きいと見なされた事故の場合、連邦政府が油回収作業の指揮権をとらなければならない。また、被害の少ない事故の場合にも、法律上の原因者または他の団体の対応が充分であることを連邦政府が確認しなければならない。

 

国家災害対策センター(National Strike Force Coordination Center)の設立

エクソン・バルディーズ号事故での問題点の中に、油回収機器類の投入時期の遅れ、機器類の不備、熟練したスタッフの不足などが挙げられる。これらのことから、国家災害対策センターが設立された。センターでは、方策、人材、機器類の世界的データベースの作成や船体および設備検査の管理、FOSCへの技術的援助、機器類やその他の対策を提供する。最悪の事態の場合はFOSCと協力、調整をする。

 

 

 

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