最近の油流出事故と政府機関の対応強化
1989年にアラスカで発生したエクソン・バルデイーズ号による大規模な油流出事故によってアメリカでは、油汚染やその他の原因が海鳥個体群や沿岸海洋生態系に与える影響を調査、改善する活動が再び活発化しました(Piatほか1990;1991:Fordほか1996;Piatt & Anderson 1996;Riceほか1996の内の他の論文も参照)。さらにそれは1990年のOPA‘90の誕生に結び付いています。1990年代には、連邦と州の機関は米国西海岸における油流出事故対策を大幅に強化してきました。
多くのカッショクペリカンに被害を及ぼした1990年のアメリカン・トレーダー(American Trader)号油流出事故以来、カリフォルニアでは一層組織的な油流出事故対応が実行されるようになりました(Oceanor 1990)。それ以前は、被害を受けた野生生物への対応は、政府、大学、民間のグループなどによって任意に行われるか、全く行われないかのどちらかでした。カリフォルニアでは油汚染により効果的に対応するために、1991年に州政府がカリフォルニア州魚類鳥獣保護局の中に油流出防止対策室(Office Of oil Spill Prevention and Response,以下OSPR)を設置しました。米国西海岸全域で、米国魚類野生生物局、NOAA等様々な州の機関が、油汚染を一層改善するための新しいプログラムを開発しています。
カリフォルニアでは、OSPRとNOAAがファラロン湾国立海洋保護区でポイントレイズ鳥類研究所、大学、ボランティアグループに以下の目的のための資金援助をしてきました。訓練された生物学者のネットワークの結成、流出事故の最中の海上調査や鳥類海岸線調査のためのマニュアルの作成、油流出事故が海鳥個体群に与えた被害を後で評価するために必要なベースラインデータの収集です。
ウミガラスは米国西海岸全体において繁殖する最も個体数の多い海鳥であり、かつ米国西海岸全域に定住する最も多い海鳥の1つでもあり、油流出事故で大量の個体が死亡することがよくあります。ウミガラスの生態、個体群、油汚染による影響、その他の保護上の問題点といった全ての情報をまとめることに、最近多くの努力が払われてきました(例Takekawaほか1990,wilson 1991,Calerほか1995,Nurほか1997,Sydemanほか1997,Manuwalほか未発表)。個体群の通常状態をモニタリングすることで、1990年代初頭のカリフォルニア中部では、1980年代の刺し網漁による混獲と油流出事故による影響をウミガラスが長期に渡って受けていること、そしてその個体数はある程度回復していることが明らかになりました(図2参照)。ワシントン川のウミガラスの個体群は、刺し網漁による混獲と油流出事故による致死被害、そしてエルニーニョ現象の影響で1980年代に減少して以来回復していません。
1993年以来、ファラロン湾国立海洋保護区は一般市民を主体とした海岸観察プログラムをカリフォルニア中部で実施しています。このプログラムの目的は、一般市民に海鳥について知ってもらうこと、ファラロン湾国立海洋保護区の管理と事故対応に役立つこと、流出事故の際に行われる鳥類海岸線調査に役立てるためのベースラインデータを収集すること(Rolettoほか1997)、そして1985年まで行われていたポイントレイズ鳥類研究所のプログラムを部分的に復活させることでした。