は じ め に
この論文では20世紀のカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン川といった米国西海岸における油流出事故による海鳥の致死被害状況をまとめます。さらに以下のことにも言及します。
1)油流出事故による海鳥の致死被害と個体群に対する影響の研究作業がどのように発展してきたか
2)油汚染が海岸環境に与えた影響をきっかけに、海鳥の研究、保護、管理の努力が米国西海岸でどのように発展してきたか
3)油汚染が海鳥に与える影響を軽減する上で連邦および州政府、大学、民間の研究グループがいかに重要な役割を果たしてきたか
過去の油汚染による海鳥の致死被害
1969年以前の油汚染による海鳥の致死被害については、あまり詳細な記録は残されませんでした。限られた記録からわかることは、こうした海鳥の致死被害は恐らく頻繁に起こっていただろうということと、かなり大規模なものでないと報告されなかったということです。
サンフランシスコの近くでは、20世紀初頭のファラロン諸島(Farallon Islands)近海で、石油タンカーや他の船舶によるタンクの清掃や船底のビルジの排出を原因とする油汚染が頻繁に起きました。広範囲な海鳥の致死被害が大平洋オーデュボン協会ゴールデンゲート支部によって詳細に記録され、また個人や政府、学者らによって汚染を食い止めるための努力がなされました(Ainley & Lewis 1974, Manuwalほか未発表)。幾つかの石油会社が、サンフランシスコ湾とロングビーチ港に廃油保管用の施設を建設することに同意しました。
1937年のフランク.H.バック(Frank H.Buck)号油流出事故(タンカーが客船と衝突)では、カリフォルニア大学バークレー校のカリフォルニア科学研究会とオーデュボン協会ゴールデンゲート支部の研究者が、鳥類海岸線調査や博物館用の標本の収集などを行ってサンフランシスコ近海の海鳥の大規模な致死被害についての詳細な記録を残しています(Aldrich 1938, Moffitt & Orr 1938)。
20世紀初頭の(営利目的の卵の採集や人間の活動による妨害、油汚染を原因とする)ファラロン諸島のウミガラス(U.aalge)の繁殖個体群の減少も卵採集家や鳥類学者によって詳細に記録されています。この個体群は1950年代までほぼ絶滅状態のままでした(Manuwalほか未発表;図2参照)。
一般市民による,油に汚染された海鳥のリハビリテーションの努力は、1940年代から行われるようになりました(Williams 1942).
1950年から1957年の間のモロー湾(Morro Bay)でも海鳥が頻繁に油に汚染された記録が