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消化管内の油の影響を考察する際、注目すべき結果が消化管内容物の化学分析によって得られている。

消化管内の黒色汚染が肉眼的に重度であったウトウ5例およびウミスズメ8例について、それらの消化管内容物を様々な化学分析法によって検査した。ここで肉眼的に重度の汚染とは、剖検時に鳥の消化管が黒色のタール状内容物によって充満させられた状態を指している。

その結果、消化管内から得られた内容物には、重油成分は0.1%しか含まれておらず、他は重油成分ではないことが分かった。しかも、油以外の成分はほとんど水溶性の有機成分か無機成分の集合であることが明らかとなった。しかし、検出された重油成分は明らかにナホトカ号から流出した油の示す分析パターンと一致した。

これらのことは、検査した鳥の消化管内容物にはナホトカ号由来の油が含まれていたがその量は少量であり、その他に含まれるほとんどの成分は鳥の体組織あるいは、体液ないし血液に由来したものであることを示唆している。すなわち、これらの鳥はごく少量の油を呑み込んだ結果、消化管粘膜の形態あるいは機能に異変を来たし、それに続いて消化管内に組織成分が脱落あるいは漏出したものと考えられた。このことは、鳥に急激な脱水が引き起こされた可能性を支持する。また、これらの結果は、影響を受けた鳥が急性の栄養障害を引き起こし、さらに消化管内出血のために貧血状態に陥るか、あるいは、消化管内への体液喪失のために血液の粘稠度の亢進を起こして急性循環不全を引き起こしたことをも示唆している。

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注:これらの体内から得られた油の化学分析についての結果は、国立環境研究所化学環境部動態化学研究室との共同研究から得られたものである。

 

8. 病変と臨床経過との関係

次に、臨床処置の影響が病変の発現とどう関係するかをみるために、比較的剖検数の多かったウミスズメ類、アビ類およびカイツブリ類について検討した。ウトウについてはそのほとんどが死体で回収されたため、ここでの検討対象から除外した。

ウミスズメ類については総数83羽(ウミスズメ80羽、マダラウミスズメ3羽)を検査対象とした。そのうち、被害現地で何らかの原因(発見時死亡個体のほかに、保護後短時間で死亡した個体を含む)で死亡し、直接病理解剖に付された個体は32羽(38.6%)であった。一方、現地(保護地)で保護されたのち、リハビリテーション・放鳥の目的で北海道のウトナイ湖サンクチュアリーに搬送されたのちに死亡した個体は51羽(61.4%)であった。

病理検査の結果、全体を通じて肺水腫が全体の4割と最も多く認められ、その他、肝臓、腎臓、副腎の腫大性変化が20%前後の個体に認められた。このうち、肺水腫については、この病変が生じる可能性は十分存在するものの、今回の場合、冷凍死体を解凍させたことの影響がとくに肺では強く残存しており、本来の病変かどうかの鑑別は困難であった。肝臓と腎臓の腫大は組織学的に、肝臓では主としてうっ血と、実質細胞の混濁腫脹に基づくものであり、腎臓では混濁腫脹によるものと考えられた。脾臓では恐らくうっ血あるいは溶血性貧血

 

 

 

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