ウトウの発見時死亡率が97%であったことは前述した。すなわち、ほとんどのウトウは死体で発見された。一方、ウミスズメや他の種類の鳥は、発見時の生死が半々であった。ここで示したウミスズメのうち、死体で発見された個体数と生体で発見された個体数の比率は不明である。ウトウはここで示した数のほぼすべてが死体であったと考えて間違いはない。グラフに表すと、両者のグラフがじつによく一致していることがわかる。一応、ウミスズメの生死の比率を半々と考えると、これらの鳥に限っては、体表の油汚染率と、発見時の生死との関係はあまり明瞭ではないと言えそうである。
これらの鳥はすべて結果的には死亡した個体である。発見時の生死に拘らず、結果的に死亡した個体の75%は体表が油で汚染されていたことになる。体表の油汚染は鳥にどのような影響をもたらすのであろうか。
我々は実物のウミスズメの死体を用いて、その羽毛の深さ、体長、胸囲、事故当時の気象状況などの実測値をもとに熱伝導学的なシュミレーションを行った。その結果、無風、気温2℃、海水温10℃、鳥の体温40℃、正羽の深さ7mm、綿羽(ダウン)の深さ3mmと設定した場合、海水に接触する体表のわずか10%が油で汚染されただけで、鳥の内部温度は正常時に比べて6〜7倍の速度で損失して行くことが予想された。
このことは、油汚染を受けた鳥では、内部の産熱を数倍に高めなければ、体熱が急速に奪われて行くことを示している。上のグラフの+1のレベルでも体表面積の30%以下の汚染度を示しており、ウトウやウミスズメの死因に、油の体表への付着が影響していたことは容易に推定できる。
それでは体表に油がみられなかった鳥では、一体何が死因に影響したのであろうか。その原因のひとつが消化管内に呑み込まれた油にあったと考える根拠を次に示す。
注:ここで述べた熱伝導学的な計算結果は筑波大学構造工学系の石黒博助教授との共同研究に基づいたものである。
7. 主な鳥種における油の呑み込みとその影響
回収後に治療経歴のないウミスズメとウトウについて、消化管内の油を含むと考えられる黒色物の検出率を比較した。このうち、前述のように、ウトウは97%の個体が死体で回収されていることが分かっている。一方、ウミスズメでは回収時の生死がほぼ半々と推定される。回収された死体によっては消化管が腐敗したり損壊したりして検査が不可能な場合があったため、ここでは検査が可能であった個体でのみ比較をした。検査部位としては呑み込まれた油の最終到達点である大腸を選択した。例数はウミスズメ50例、ウトウ43例である。
その結果、ウミスズメでは黒色物の検出率は30%であったのに対して、ウトウでは95%であった。この結果は、回収時での生死に消化管内の黒色物の存在が影響していることを示唆している。