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3. 病理検査の制限

病理検査は肉眼検査と組織検査に大別して常法通りに実施された。しかし、いくつかの点で制限があったので主なものを説明する。

1)病理検査は新鮮個体について速やかに実施されることが最も望ましい。しかし、事故当時の混乱や病理検査体制との関係で、ほとんどすべての死体は一時冷凍保存され、一定期間放置したのちに剖検された。従って、ほとんどの死体に冷凍および解凍による人工的な形態変化が存在した。この点は組織検査においても大きく影響した。

2)死体、とくにウミスズメは動物学的に貴重な鳥類に属しており、病理検査後の遺骸の利用価値も高かった。そのため、病理解剖に伴って発生する羽毛や頭部の損壊をなるべく避ける方向が要求された。従って、病理検査においては頭部の検査は省略した。しかし、この種の病変の多くは頭部とは直接関係しないはずであるので、これについては全体への影響はあまりないものと考えられる。

3)病変の意義の考察にあたっては、対象の疫学的な出来が重要な要素である。しかし、激しい混乱のなかで、病理検査結果の考察に重要な項目、例えば、治療の有無や期間、洗浄の有無や回数、臨床症状の推移、甚だしい場合は病理検査の対象個体が発見時死体であったのか、生体であったのかなどの情報が欠落していることも少なくなかった。そのために病変の考察が不十分になったことは否めない。

 

4. 病理検査の流れ

原則として死体は冷凍状態で、各自治体またはリハビリテーション・放鳥施設から直接病理検査機関に送付された。送付された死体は冷凍庫(-20℃)内で保存されたのち、剖検時に解凍され、病理検査に供された。

病理検査の進め方と採材部位、材料の保存方法などについては下図に示す。このうち、(1)および(2)の一部については岐阜大学が担当し、(2)〜(4)および(1)の一部については野生動物救護獣医師協会が担当した。以下の病理検査の結果は両機関の共同によるものである。

 

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なお、病理検査の対象とした個体数は、それぞれの種類ごとに、推定された被害数の10〜20%を最低の目標として決定されたものである。具体的には岐阜大学の剖検総数が147羽、野生動物救護獣医師協会が143羽、両者の総数290羽で、全剖検数は全推定被害数1315羽の22%にのぼった。

 

 

 

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