講演
ナホトカ号油流出事故による海鳥類への影響調査
-病理学的検討-
野生動物救護獣医師協会研究部長
梶ケ谷 博
岐阜大学農学部獣医学科家畜病理学講座・野生動物救護獣医師協会(共同報告)
1. 被害数の概要
環境庁のまとめによれば、今回のナホトカ号海難事故において近海で海洋油汚染の直接の被害に遭った鳥の総数は1,315羽であった。そのうち、最も多かったのはウトウとウミスズメで、発見時の生死個体を合わせると、ウトウは497羽(37.8%)、ウミスズメは455羽(34.6%)であり、両者を合わせると全体の72.4%に及んだ。それらに続いてアビ、オオハム、シロエリオオハムなどのアビ類 3種120羽(9%)、カモメ類 7種83羽(6.4%)、カイツブリ類 5種60羽(4.5%)、その他が認められた。
なお、鳥種の同定についてはボランティア組織油汚染海鳥被害委員会(OBIC)が行い、病理検査結果はそれに基づいて整理されたものである。
2. 被害鳥の発見時の生死
被害鳥総数1,315羽のうち、発見時にすでに死体であった個体の総数は897羽で、全体の68.2%を占めていたが、その半数以上がウトウによるものであった。すなわち、ウトウを除くウミスズメやその他の鳥の総数818羽についてみると、死体の占める比率は415羽(50.7%)に過ぎないのに対して、ウトウでは、総数497羽に対して482羽がすでに死体で発見されており、その発見時死亡率はじつに97%にのぼった。
病理検査は、主として発見時にすでに死体で回収された個体群と、生体で回収されたのち、治療から放鳥までの過程で死亡した個体群とに分けて実施された。しかし、発見から病理検査に至るまでの個体の移送やラベリングの混乱から、発見時の生死を個体単位で特定できない場合も少なくなかったため、生・死体に関する区分は原則的なものである。