講演
ナホトカ号事故時の鳥類海岸線調査の実際と今後の課題
(財)日本野鳥の会保護・調査センター副所長
古南 幸弘
(1)ナホトカ号事故時における鳥類海岸線調査の実施状況
ナホトカ号油事故にあたって、地域の自然保護NGOによって、被害規模を推定するための鳥類海岸線調査が行われた。これは、地域における自発的な取り組みと、油汚染海鳥被害委員会(以下OBIC)の招きで来日したアメリカ合衆国の科学者グループによる勧告によるところが大きかった(図1)。OBICと地域グループは協力して、調査のためのマニュアルを作成し(表1)、各都道府県の地域グループに配布し、調査の呼びかけを行った。
各地域の実施状況は表2の通りである。地域によって、実施の有無、その開始時期、頻度に大きな開きがある。これは、鳥類海岸線調査があらかじめ準備されたものではなく、また汚染された鳥類の救護・リハビリテーションのためのボランティア活動に多くの手を割かなければならない地域のあったこと、油の漂着程度がひどく、回収作業のため立入禁止の区域が多く存在した地域のあったことに起因する。全海岸線を統一した頻度、調査日で行うことはできなかった。
比較的組織だった調査が実行された京都府の場合、次のような概要で調査が実行された。
a.連絡網の整備
現地で情報の流せる人、現地に詳しい人(アマチュア研究者など)、野鳥観察の経験があって調査に参加できる人のネットワークが作られた。当初、電話とファクシミリによる連絡先リストが整備され、のちに電子メールによる情報交換専用のメーリングリストが整備された。
調査は主に京都府在住の日本鳥学会員、日本野鳥の会京都支部、但馬野鳥の会会員、日本鳥類標識協会会員などのボランティアにより行われ、大阪府、兵庫県の日本野鳥の会会員等によりサポートされた。
b.調査地の把握と調査分担、調査地図作成
1月15日に実施された予備的な調査により、調査すべき海岸が把握され、全体を4区間に区分してそれぞれに連絡担当者が置かれた。調査にあたっては海釣り用の案内ガイドブック(海岸線の空中写真)が当初利用され、後に調査用地図が作成された。調査用地図は海岸線を200mごとに区分して番号を付けたもので、これにより、発見位置の報告が簡易にできるようになった(図2)。
c.調査マニュアルの整備
bと並行して、調査用のシートとマニュアルが整備された。シートの改良に当たっては、OBICによるアメリカ合衆国の科学者チームからの情報が参考に付された。