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た人材がおり、救護内容も体系立てられていれば、こうした多くの摩擦は避けられたでしょうし、鳥はより効率よく効果的に救護を受けられたでしょう。

油流出事故に完全に備えることは困難ですが、油流出事故が起こる前に人材を教育しておくことは、油流出事故の間に施される救護の質を間違いなく向上させます。カリフォルニアでは、油汚染野生生物救護ネットワークがカリフォルニア州全体で訓練プログラムを提供する役割を担っています。これは、油に汚染された野生生物に可能な最高の治療を施すことを保証するためです。訓練プログラムは、講義や実演、鳥を用いた実習などで構成されています。油に汚染された野生生物の救護をしたい人々に対して行われる訓練プログラムには、鳥の取り扱い、採血、洗浄といった技術も含まれています。記録作成、訴訟に必要な法的な証拠の収集、油に汚染された野生生物の救護に関する公衆衛生上の危険性といった項目にも重きを置いたプログラムです。公衆衛生の問題に関する訓練では、人畜共通伝染病に関する情報と、石油製品の潜在的な発癌性に関する情報が与えられます。獣医師、リハビリテーション担当者、ボランティアを対象とした訓練プログラムの開発は、油に汚染された野生生物に適切な救護を施すことのできる施設を建設することに加えて、日本におけるもう1つの優先事項とされるべきです。既に訓練プログラムを開発済みのグループ(油汚染野生生物救護ネットワークと国際鳥類救護研究センター)の協力を得て、そうしたプログラムを翻訳したり訓練の手助けをしてもらうことは容易でしょう。

 

リハビリテーションと放鳥は最終段階ではない

 

放鳥後の生存率に関する研究には様々な方法論がありますが、こうした研究によってリハビリテーションされた動物の追跡情報を得ることができます。研究の種類としては、放鳥後にバンデイング(個体識別標識の装着)された鳥を目視観察するといった簡単なものもありますし、より洗練された手法として小型無線発信機を鳥に取り付けるといった調査や、航空機からの観察によって生存状況を監視するといった調査などがあります。用いられる手段は何であれ、これらの研究は油に汚染された野生生物の救護技術の効力を評価するために重要なものです。このような研究は、海鳥の生態をよく知っている野生生物を専門とする生物学者と協力して行われるべきです。カリフォルニアで行われた放鳥後の生存の研究から得られた知見のほとんどは、生物学者と政府機関、獣医師らによる共同作業によって得られたものです。

昔は、油に汚染された野生生物の救護というのはリハビリテーションと放鳥のことでした。リハビリテーションが終わるまで生き残った個体の割合が、成功したかどうかの基準でした。しかし、この様なリハビリテーション活動の評価の仕方は適切とは言えないでしょう。油に汚染された野生生物が、放鳥後も長期間に渡って生存することはないということを示唆する研究が幾つかあります。

一方、別の研究では油に汚染された野生生物がリハビリテーションの後に何年も生きるばかりか、繁殖もすることが示唆されています。現在では、海鳥や海棲哺乳類が長期間生存できるかどうかを左右する多くの要素が存在することが明らかになっています。こうした要素とは、油に汚染された動物の種、動物に影響を与えた石油製品の種類、油に汚染された動物がいかに迅速に収容され救護されたか、動物の治療のために利用できた技術と装備といったものです。

 

 

 

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