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医学的な見地からすれば、科学的手法が進歩し、異なった海洋生物の種に対する油の特定の毒素の影響がもっとよく解明され、医学的手法が発展するに従って、放鳥後の生存状況は改善されると言えるでしょう。私達は、現在の救護技術の検証を続け、油に汚染された野生生物の救護の仕方を改善するために別の医学的手法が必要かどうかを判断し、油に汚染された野生生物の長期間の生存を保証しなければなりません。しかし、油に汚染された鳥の全てが放鳥され、長期間生き残ることを期待するというのは非現実的です。油の毒性は幾つかの鳥を死に追いやるでしょう。このことは、ナホトカ号油流出事故で救護を受ける前に大量の鳥が死んでいった事実を見れば明らかです。

 

結論

 

ナホトカ号油流出事故は、油に汚染された野生生物のリハビリテーション活動としては日本で2つ目の大規模なものでした。他にも多くの油流出事故が毎年起きていますが、油に汚染された鳥は救護、リハビリテーションされてきませんでした。ナホトカ号事故における低い放鳥率には多くの批判がありましょうが、今回の努力は以下の様な状況を考えれば尊敬に値するものでした。

1)非常に毒性の強い石油製品が流出したこと

2)事故に対応できる訓練された人材がほとんどいなかったこと

3)被害鳥回収作業の手順が事前にまとめられていなかったこと

4)鳥の受け入れと処置をする中心的施設が存在しなかったこと

5)医学的処置の手順が体系だててまとめられていなかったこと

6)野生生物の救護のために不適切な施設しか使えなかったこと

7)海鳥を扱った経験が少なく、保護するのが難しい鳥種を救護する必要があったこと

8)油流出事故に対応するための全般的な経験が不足していたこと

などです。

ボランティアとスタッフによる長時間に渡る労働と献身的な努力は、日本の人々の自然環境に対する関心の高さの証であり、それは経済的な関心とは無関係なものでした。ボランティア、リハビリテーション担当者、生物学者、獣医師の全てが、油に汚染された野生生物のより良い救護の方法を意欲的に学ぼうとしました。カリフォルニアで用いられている技術を学ぶために、講義と実演に多くの人々が参加しました。ナホトカ号油流出事故に対応する間に行われた実地訓練や経験の蓄積、医学的な野生生物の救護の手法の確立、将来必要となってくるものの特定などを通して大幅な進歩が成し遂げられました。計画中の「水鳥救護研修・支援センター」の様な中心的施設の設立を実現し、訓練プログラムを共同開発することで、日本は次回の油流出事故に備えることができるでしょう。日本は油に汚染された野生生物を高いレベルで救護するために必要な全ての要素を持つことになり、他のアジア諸国の見本となるでしょう。ナホトカ号油流出事故は、政府機関、非営利組織、NGO、専門家グループ、ボランティア、国際的なコンサルタントの間に議論の場を創り出してくれました。この事が、日本が将来に向けての準備を進める上で役に立ってきたことは間違いありません。この国際シンポジウムにご参加された皆さんによって、日本は油に汚染された野生生物の救護の問題に適切に取り組み、また野生生物保護に対してより高い関心を喚起して行く道を歩み始めようとしているのです。

 

 

 

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