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しては、ナホトカ号油流出事故で生体として救護された鳥の21%がリハビリテーションされ放鳥されたことになります。

さてナホトカ号油流出事故で最も被害を受けた鳥種(科名)には以下の様なものがあげられます。ウミスズメ科、アビ科、カモメ科、カイツブリ科、ウ科(表2参照)です。影響を受けた鳥の数から言えばウミスズメ科が最も著しい影響を受けた(996羽)ことになりますが、生体として捕獲できたのは比較的少ない割合(27%)でした。この事は、ウミスズメ科の鳥はこの油製品の毒性に対して特に敏感で、非常に簡単に低体温症になりうるということを現わしています。被害鳥回収作業によって生体で捕獲された個体の割合がウミスズメ科よりも低かったのはウ科だけで、その割合は22%でした。

反対にアビ科、カモメ科、カイツブリ科では、被害鳥回収作業によってそれぞれ約50%の個体が生体で捕獲されました。油流出事故の被害を最も受けた鳥種はウトウ(Gerorhincamonocerata)でした。全部で996羽のウミスズメ科の鳥のうち、497羽のウトウが被害鳥回収作業で回収されました。つまりこれは回収されたウミスズメ科の鳥の総数の半分に相当します。さらにウトウは、わずか14羽、つまり3%だけが生体として救護されました。これは石油製品から受ける影響が鳥種によって異なっているということを明確に現わしています。

ナホトカ号油流出事故で著しい影響を受けた他のウミスズメ科の鳥としては、小型ウミスズメ類[訳注:原文はmurreletsでウミスズメ科の中でも小型の鳥種(SynthliboramphusとBrachyramphusの2つの属)を示す]があげられます。被害鳥回収作業の際に回収された小型ウミスズメ類は、248羽が生体で、218羽が死体でした。ウミスズメ(Synthliboramphusantiquus)、絶滅危惧種のカンムリウミスズメ(S.wumisuzume)、希少なマダラウミスズメ(Brachyramphus marmoratus perdix)[訳注:原文はrare Long―billed Marbled Murrelcts(Brachyramphus marmoratus perdix)。マダラウミスズメ(Marbled Murrelet)の2つの亜種のうちの1つ(ロシア、日本側に生息)は、近年になって別種Long―billed Murrelet(Brachyramphus perdix)とされ、絶滅も懸念されていることを原文は反映している。]のそれぞれの個体数はまだはっきりとわかっていません。このことからも油流出事故対応の際には、種の同定ができる経験豊富な鳥類生物学者が必要だということが言えるでしょう。種の保護の観点からすれば、動物の救護の優先順位は、もし救護に必要な資源や人材が限られているのであれば危惧種の救護を中心に考えるべきでしょう。

ウミスズメ科の鳥のみならず、油流出事故で回収されたほとんどのウ類が死体で回収されたことも重要なことです。アビ類、カイツブリ類、カモメ類に比べてウミスズメ科の鳥やウ類がより高い死亡率を示した理由としては、ウミスズメ科の鳥やウ類はより沖合いで油にさらされたので、海岸に漂着したり泳ぎついたりするまでに時間がかかったという説明ができるでしょう。つまりウミスズメ科の鳥やウ類が冷たい海水により長い時間さらされ、冷たい日本海で低体温の状態に陥ったであろうと考えられます。さらに、ウミスズメ科の鳥やウ類は、毒性のある石油製品に他の鳥種よりも長い時間接していたことになりますので、油にさらされ、それを摂取する危険がより高かったと考えられます。

 

 

 

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