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を供給できるものではありませんでした。さらに、この石川県野鳥園で洗浄とすすぎに用いられた水は高濃度のカルシウムとマグネシウムを含む硬水(硬度7)だったために、羽毛から油を取り除いた後に全ての洗剤を十分に洗い流すことはできませんでした。この事は、ほとんどの「きれいになった」鳥の羽には洗剤分が残留しており、鳥が十分な防水性を取り戻せなかったであろうことを意味しています。鳥はダンボール箱の中に入れられ、ヘアドライアーの温風によって乾かされました。

また、油流出事故対応の際には必ず使われる、洗浄の後数日間に渡って鳥の防水性をチェックするための回復プールもありませんでした。その代わり、鳥の防水性は水を張ったプラスチック製の容器に鳥を30秒間浮かべてみることでチェックされていました。もし鳥が浮かんでいられたらその鳥は防水性があると判断され、段ボール箱に戻され、ウトナイ湖サンクチュアリ(北海道)へ移送されるのを待ちます。しかし例え,鳥が洗浄によって防水性を回復していたとしても、放鳥される前の数日間、平底の段ボール箱に再度入れられていたので鳥の羽は尿酸や排泄物によって汚染されてしまっていたでしょう。

平均的な流れとしては、鳥は石川県野鳥園で5〜10日間収容され、「放鳥基準に適合した」ものは「放鳥前」段階の施設であるウトナイ湖サンクチュアリへ移送されました。海岸での被害鳥回収作業で生体として救護された全個体415羽の内、ウトナイ湖サンクチュアリへ移送されるまで生き残ったのはわずか149羽(36%)だけです。鳥が捕獲されてから放鳥前の施設に移送されるまでの間に生じたこの様な高い死亡率(64%)の最大の原因としては、恐らく以下の様なものがあげられるでしょう。

1) 鳥を被害鳥回収作業の現場からリハビリテーション施設へ運ぶまでに時間がかかりすぎた。

2) 被害鳥回収作業の現場で保護された後、リハビリテーションの初期段階で鳥が石油の中毒症になった。

3) リハビリテーション施設で適切な医学的な安定化の治療が施されなかった、などです。

しかし石川県野鳥園で治療された鳥の正確な数が不明なため、こうした事故対応の初期段階で記録されている高い死亡率の最大の原因を特定することは困難でした。

石川県野鳥園からウトナイ湖サンクチュアリへ移送されてから数日後、外観上健康であると判断された鳥は日本海へ放鳥されました。放鳥場所は、油流出事故が発生した場所の北、数100kmにありました。リハビリテーションされた鳥の最初の大規模な放鳥は1月14日に行われました。61羽の鳥が石川県から北海道へ空輸されたのですが、5羽は放鳥の前に死亡し、12羽は放鳥時に飛び立つことができませんでした。放鳥の翌日に同じ海岸で再び救護された鳥もいましたが、正確な羽数の記録は残っていません。リハビリテーション施設では可能な最高の救護が施されましたが、「放鳥基準」に達する前の鳥も達した後の鳥もかなり消耗していました(表1参照)。この事は「放鳥前」の鳥の健康状態の評価が正確に行われず、不健康な鳥が放鳥されたであろうことを意味しています。この事はまた、鳥が北海道へ移送されている最中、放鳥前施設での数日間、放鳥直後といった時期に鳥が何故死亡したかを物語っています。油流出事故の対応が1月中旬以降も続いたので、救護の内容が変わり、それ以降はより体力のある健康な鳥が放鳥されるようになったと思われます。

石川県から移送されてきた鳥には、防水性のある個体がほとんどいなかったため、多くの鳥がウトナイ湖サンクチュアリで再洗浄されました。全ての記録はありませんが記録がある範囲で推定すると、149羽中の87羽(58%)がウトナイ湖サンクチュアリから放鳥され、149羽中の59羽(40%)が放鳥前に死亡しました。残りの3羽は東京に輸送されました。全体と

 

 

 

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