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第1部 ナホトカ号事故時の日本の取り組み

座長 馬場 國敏(野生動物救護獣医師協会)

 

講演

ナホトカ号事故における保護鳥類の救護活動とその将来像

カリフォルニア大学デービス校獣医学部野生生物ヘルスセンター 獣医師

スコット・ニューマン

 

ナホトカ号油流出事故時の油に汚染された野生生物の救護

 

1997年1月2日、ロシアタンカー「ナホトカ号」から約6,400klのC重油(精製油)が日本海に流出しました。この事故は、本州の日本海沿岸200 km以上に渡って著しい影響を及ぼし、養殖、漁業、観光地のみならず海岸の自然環境にも被害を与えました。この事故の発生後すぐに海鳥への被害が確認され、主に4つの野生生物の救護施設が石川県、福井県、鳥取県、北海道に設立されました。

事故対応における被害鳥回収作業の段階で、合計1,315羽の鳥が12府県で回収され、その大多数は石川県、新潟県、福井県、京都府で回収されたものす。この回収された鳥の数を1969年から1997年までにアメリカのカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州で起きた油流出事故に照らしあわせてみると、48件の事故の内たった8件の事故しかこれに匹敵するものはありません。まさにナホトカ号の油流出事故は、世界的にみても大規模なものだったのです。

418羽の生体と897羽の死体が被害鳥回収作業で回収されました。油に汚染された鳥の生体の大部分(ウトナイヘ移送された149羽中の110羽)は、初期治療と安定化のために石川県野鳥園(石川県)に搬入されました。そこでは鳥は1箱につき3羽から7羽の割合で段ボール箱に入れられ、その段ボール箱は13℃から18℃の部屋に置かれました。また魚が強制給餌されました。換気は段ボール箱の側面に3〜4センチの穴が数ヵ所空けられることによって得られるごくわずかなものでした。この段ボール箱が置かれた部屋そのものの1時間ごとの換気も、その正確な換気量は不明ですが不十分なものでした。また、鳥は個々の個体として取り扱われることもありませんでした。というのは、鳥にはバンディング(個体識別標識の装着)がされていませんでしたし、身体検査の後に個々の鳥のカルテが作られることもありませんでした。さらに、油の毒性に対処したり摂取された油を消化管(胃と腸)から取り除くための薬物治療が何もされていませんでした。体内の生理学的な健康状態を観察するために必要な血液サンプルも採取されていませんでした。このことによって、リハビリテーシヨン施設に搬入されてくる鳥がどれ程中毒になっているかを医療の専門家は知ることができませんでした。

安定化したと判断された鳥は、5分〜15分間洗浄されましたが、この安定化したという判断は外観、様子、元気かどうかといった見ため上の判断基準に基づくもので、洗浄が4回も繰り返される様な鳥もしばしば見受けられました。鳥は食器洗い洗剤「Joy/商標」で洗浄されました。この洗剤の製造元であるプロクター&ギャンプル(P&G)社によれば、この洗剤は同社がアメリカで販売している食器洗い洗剤「Dawn/商標」と同じ洗剤であるとのことです。鳥は小さな洗い桶の中に入れられ、ハンドシャワーを用いて洗浄されます。この施設の水道設備は、鳥に付着した油と洗剤を洗い落とすために必要とされる高い水圧(40〜60PSI)

 

 

 

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