ナホトカ号の油流出事故では、ほとんどの関係団体が準備不足の状態でした。今こそ政府機関とNGOが共にこの不幸な事故から学び、準備を始める時でしょう。アメリカや他の国々の先端的な知識や経験を十分に検討することで、日本は海や海岸線に生息する野生生物に対する自分達の思いが十分に反映されるシステムを作ることができるのです。一度目は騙され、その結果手痛い思いをさせられました。今回うまくいかなかったのは、経験が無かったことや問題意識が無かったせいにしてもいいでしょう。
しかしこんな言い訳は次回の事故の時には成り立ちません。もし日本が次回の事故までに、十分な体制を準備出来なければ、世界に対して恥ずかしい思いをするだけでなく、地球の財産である野生生物を再び多数失い、次の世代が豊かな生態系を引き継げないという事になるでしょう。
今回のシンポジウムの発表は、それぞれ資料としても貴重なものです。日本で初めて総合的に行われた自然資源損害アセスメント(Ntural Resoursce Damage Assessment)の実践記録であり、かつその結果の分析も紹介されています。また、日本より取り組みの進んでいるアメリカ連邦政府の政策的な枠組みや、その中でもまた独自に強化した対応政策を取っているカリフォルニア州の制度を説明した資料も収録してあります。この部分は、まだアメリカでも出版されていない書き下ろしの原稿です。
そのため、今回シンポジウムに参加できなかったけれども、油汚染に強く関心を寄せている方々とこの情報を共有したく、報告書を発行することとなりました。この報告書は、次に油汚染事故が起こった際、また事前の緊急計画を立てる際対応されるNGOや行政の方の参考資料として活用して頂ければ幸いです。
このシンポジウムは多くの方たちの協力により準備がなされ、そして当日は、自然保護関係者はもとより、政府、地方公共団体等の行政の方々、海事関係の方々、マスコミの皆さんの参加を得て、長時間熱心な議論が展開されました。影で運営を支えてくださったボランティアの皆さんと、参加者の皆さんに大変感謝しています。
アメリカからは、極めて多忙な方たちが個人の時間を割いて詳細な要旨を作製してくださり、当日は美しいスライドを用いて、日本の対策の前進のために丁寧な講演をしてくださいました。深謝に耐えません。私たちは、今回のシンポジウムとこの報告書が日本の体制強化の、飛躍的な第一歩に繋がることを願っています。
平成10年3月31日
日本ウミスズメ類研究会/ジョン・フリーズ
野生動物救護獣医師協会/植松―良
(財)世界自然保護基金日本委員会/東梅貞義
日本財団/高木純一