野生生物の個体群や生息地に油が達するのを防ぐ技術、汚染された領域から野生生物を追い払うこと、影響の記録方法について詳しく述べています。
なぜアメリカのモデルを取り上げるのか
私達がアメリカのモデルを勉強することにした理由は、アメリカ、特にカリフォルニア州が油流出事故の影響から野生生物を保護しようとする徹底的かつ積極的な努力で知られているからです。こういった努力の背景にはパブリック・トラストという理念があり、これは環境を被害から確実に守り、それでも被害が生じた場合はいかなるものでも修復する責任が政府にはあるという理念です。私達主催者もこの理念に賛成で、日本政府にも取り入れられるべきだと考えていますし、今後の流出事故の対応活動はこの理念に基づいたものであるべきだと考えています。
アメリカでは豊富な基金によって、油で汚染された野生生物の救護技術、野生生物の追い出し技術、バイオレメディエーション、水環境中の流出油動態といった多様でハイレベルな研究が支えられています。連邦政府もカリフォルニア州での対応に参加している組織も、皆これらの研究の恩恵を受けています。さらに、アメリカには賠償の結果として入手される高額の資金が利用できるので、自然資源損害アセスメントの新しい方法や技術の開発が行えます。そして、アメリカの海域では航行するタンカーや沖合いの洋上石油採掘基地が多いので、アメリカのシステムは繰り返し試され、再評価されてきています。こうしたことから、私達がアメリカの事例から学ぶベきことは多いであろうと考えた訳です。
しかし、アメリカの事例を取り上げてはいますが、決してアメリカのシステムの全ての要素が日本にも適切だとは考えていません。アメリカの例は、選択できる数多くのモデルの1つでしかありません。他の工業国で実践されている技術やアプローチも十分に検討する価値があります。それぞれの国は、政治、経済、文化の違いから、同じ目標を達成するにしても違った方法をとるでしよう。日本の関係者は、どういったシステムが日本の事情に最も合うのかを見極める必要があります。
さらに注意すべき点としては、講演の中で取り上げられている考え方や技術についても科学者達の間では強い意見対立があるということです。例えば環境に対する影響の質と規模を理解するのにベースラインデータだけで十分なのか、また限られた資金は油で汚染された野生生物の救護よりも環境への影響の評価や環境の回復のためにより効果的に使うことができるのではないか、最も適切な野生生物の追い出しの方法は何なのか、追い出しそのものが環境への影響を少なくするために本当に効果的なのか。アメリカ国内でもこうした議論が今も行われています。しかしこの時点で確信を持って言えることは、日本がこういった課題に取り組み、野生生物の保護方法の中から最も適切な組み合わせを決める際には、全ての利害関係者が合意に達するまでオープンな話し合いの場が持たれるべきだということです。そして、公共であれ民間であれ、いかなる団体もその話し合いの場から閉ざされるべきではないということです。