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るということが認められています。エクソン・バルディーズ号の流出事故だけでも、30万から64万羽の海鳥、3,500から5,500匹のラッコ、そして数百匹のアシカなどの鰭脚類が直接の影響で命を落としたと推定されています。南アフリカとカリフォルニアでの流出事故では、その深刻な油汚染が沿岸に生息していた海鳥の個体群を絶滅させる主たる原因の一つでした。さらに油流出事故が潮間帯に生息する生物と底生生物の個体群を壊滅させることも珍しくはありません。

すぐに生じる被害は上記の通りですが、表面化しにくい2次的な被害も深刻なものです。例えば油で汚染された貝が、それらを捕食する鳥や潮間帯に生息する動物などを汚染します。致死量にまで達しない海鳥の汚染は繁殖を妨げ、その個体群の被害からの回復能力を低減させます。どんな影響であっても絶滅危惧種やその餌、生息地に関係してくると、特に事態は深刻です。

失われた収入や財産への被害なら補償金で迅速かつ簡単に償うことができます。しかし、被害地の野生生物の個体群や生態系は回復するのに数年、数十年かかりますし、種は絶滅してしまったら2度と回復することはありません。

ナホトカ号油流出事故の時には、政府やNGOの野生生物の保護対応の在り方に懸念すべき欠点が目につきました。次の(必ず起こる)油流出事故が起きた時には、野生生物の保護に今回よりも高い優先順位が付けられ、野生生物が事前に計画された高度な保護体制の恩恵を受けることを私達は望んでいます。

 

講演の概要

 

この報告書の第1部では、ナホトカ号の油流出事故に焦点を当てています。講演者は当時の野生生物救護活動の様子を説明し、それを評価し、そして油流出事故の後に行われた野生生物関係の調査の結果を発表しています。第2部ではアメリカの事例を紹介しています。まず2人の講演者が連邦のシステムを紹介し、つづく3人の講演者がカリフォルニア州のシステムを紹介しています。

 

ナホトカ号油流出事故:油に汚染された野生生物の救護と被害の評価

スコット・ニューマン獣医師が、野生動物救護獣医師協会やその他の団体が行った油に汚染された生きている鳥の救護・リハビリテーション活動について紹介しています。生きた状態で救出された鳥のわずか21%しか最終的に放鳥されなかったこと、またその低い放鳥率は対応の初期段階での鳥の取り扱い方が不適切であったためだと彼は指摘しています。リハビリテーシヨンの活動が展開して行くに従ってリハビリテーション内容がどの様に改善されたのかを説明し、次回の流出事故の準備において何に高い優先順位を付けるとよいかについて提案しています。

野生動物救護獣医師協会の梶ヶ谷博研究部長は、死体で回収された海鳥、リハビリテーション中に死亡した個体の詳細な分析結果を報告しています。死亡の主な原因は、体温低下と油による消化管障害がもたらした、脱水であったと結論しています。今回の分析を通じて日本で初めて取り組まれた、臓器からの原因油の成分分析や体表についた油による海鳥の熱放散モデルのシュミレーションについても紹介しています。

 

 

 

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