記録集発刊にあたって………………………
あまり知られていませんが1つの諺があります。「1度目は騙すあなたが悪いが、2度目は騙される私の方が悪い」というものです。日本での災害に対する準備体制や対応の問題には、この諺がぴったりと当てはまる様に思います。最近、災害が起きてからしか対応を考えないと言って政府の危機管理体制を批判することが流行っています。欲求不満になっていた元国会議員が最近東京で開かれた危機管理のセミナーで次の様なコメントを漏らしました。「いいかげんに政府は方針を変えて、起こりうる危機に対応できる体制を整えるべきだ」と。これと同じ様なことを考えている人は多い様です。
そのセミナーは1995年に起きた阪神・淡路大震災に関するものでしたが、この報告書にもある様に当シンポジウムでは油流出事故を取り扱っています。特に1997年1月2日に起きたナホトカ号の重油流出事故に関してです。少なくともこの事件において、多くのNGOに関しても同じ批判が当てはまると思います。私達も準備不足だったのです。
大規模な油流出事故に対応するには必ずNGOの要員と専門知識が必要となるので、私達も次の流出事故が起きる前に準備しておく必要があります。その第一歩は、まずナホトカ号の流出事故の経験から出発するのが懸命なやり方です。1月2日から始まった一連の出来事を思い出し、政府やNGOがその痛々しい経験から何かを学ぶ機会を作りたかったので、私達主催者は97年12月7日に「国際シンポジウム ナホトカ号油汚染鳥類の救護・保全活動からなにを学ぶか? 環境保全における危機管理の将来像」と題したシンポジウムを東京の銀座ガスホールで開催しました。
なぜ野生生物に焦点を当てるのか
当シンポジウムにおいて、私達主催者(野生動物救護獣医師協会、 日本ウミスズメ類研究会、世界自然保護基金日本委員会、日本財団)は、野生生物とその生息地に対する油流出事故の影響とその影響を最小限に抑えるのにどうすればいいのかといった事に焦点を当てようと考えました。
日本では、油濁事故対策の主たる目的が漁業被害防止にあります。これに対してアメリカでは、生態系保全がその主な目的となっています。 私たち人類も生態系の一部を構成している生き物であり、人類が生きていくためには様々な他の生き物との関わり無くしてはいられません。その一つとして、食料調達のための漁業自体も、海洋生態系の一部である魚介類を収獲することを考えれば、生態系全体を保全することは漁業保全となり、ひいては人類存続の要件ともなります。しかし、元来水産国である我が国では、この辺りの認識が非常に狭義に論議される傾向があります。このため海鳥への油濁被害の防除については、ともすると感傷論として捉えられることが多いのです。
しかしアメリカでは、海洋生態系の頂点に位置する海鳥への油濁被害は、生態系全体への油濁被害を想定するバロメーターとみなされており、国家に対する環境被害への賠償金算定の根拠ともされています。このためアメリカでの海洋油濁事故における海鳥への被害防除は最優先課題であり、かつ最終目的としても扱われています。
この数十年、油流出事故が野生生物の個体数やその生息地に壊滅的な影響を与える可能性があ