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るけれど、聴衆として何か疎外感を感じてしまうという声も結構あるんですね。オペレッタは風俗的、歴史的なものが直接的に反映されてますから、場面設定のようなものをはっきりさせてもらわないと分かりにくいところがありますね。ですからやはり見慣れないと……。

寺崎 やっぱり一つの興業が3日や4日じゃ駄目なんです。例えば去年の『シューベルトの青春』は1週間、同じ歌役者でやったんですが、初日から1週間、毎日良くなってきますよ。一本創ったら全国で10回から20回、公演出来るような体制にもっていければいいんですけれどね。

関根 連続公演をやっているってことは、お客さんにとってもありがたいことですね。だけど日本では、まだまだオペレッタというと少ないですよね。オペラ団体協議会が日本のオペラ年鑑を文化庁の助成で作りまして、私も書いたんですが、95年の公演記録を見ると、オーソドックスなオペレッタの公演は全公演の一割にも達しません。やはり非常に少ないのだということを改めて認識しまして、寺崎さんのお仕事はまだまだあるな、と思いました(笑)。

寺崎 ほんとにたくさんあるんです。ようやく『こうもり』で19年間の総決算がほぼ出来た、ということは、20年目、成人式に当りこれがほんとうの意味のスタートだと思っているんです。

関根 それと演出家の後継者も育てていってもらわないと……。

寺崎 そうなんですよ。ところがオペレッタというとやはりこ流だと思って来ない。オペラのほうが正統派だと思っているんでしょうか、オペラの演出家は多いんですけれどねえ。最初の『椿姫』の頃に比べたら、共感してくれる平野忠彦さんや佐藤征一郎さんのようなヴェテランの歌い手たちが増えてきているんですけれど、やっぱり少ないですよ。だから真っ新な若い人たちをどんどん育てていきたいんです。ある程度やってきた人っていうのは難しいですね、クセがついてしまうので。クセと個性とは違いますから。でも木月京子さん、佐々木典子さん、宇佐美瑠璃さん、松永栄子さん、それに小乗純一さんとか近藤伸政さんとか中堅の人たちが「音楽で人間のほんとうの姿を描くドラマ」の創造方法に非常に共鳴してくれているんです。それと指揮者。『こうもり』の井崎正浩さん、今度やるコーミッシェオーバーにいた上垣聡さん、そして稲田康さんが共感もってくれてますから。やっぱり指揮者が共鳴してくれませんと。そういった、僕の考え方に共鳴してくれる音楽関係の人は多くなってきたけれど、演出家は僕と長年コンビを組んでいる藤代暁子さんの他は、なかなかいませんね。特に若い人が……。

関根 理論としては非常に分かりやすいし、共感する人も多いと思うんですけれど、やはり実践するとなると非常に困難を伴いますから、二の足を踏むんでしょうか。オペラの分野では結構若い演出家が出てきて、若いからいろいろ工夫したりして、それなりに成果も出ているように思うんですけれど、そういう人たちがオペレッタのはうには来ないのでしょうか?やっぱりオペレッタというものをもっと普及しないと駄目かもしれませんね。

寺崎 一つはオペレッタの演出ってオペラよりとても難しいんです。音楽と同時に演劇も、それとあらゆるジャンルの芸術に通暁してないと出来ないんです。オペレッタの普及については、今僕がやろうとしていることは、さっきも申しましたようにまだもう少し、ウィーンのオペレッタの伝統を踏まえた上で、絶対日本人に合うという形のものをやっていかなくてはならないと思っているんです。何から何まで向こうのものが日本人に分かるわけない。だいたい30本ぐらいですよ、日本人が分かりやすいオペレッタというものは。そうすると今18本創ってますから、あと約10本ぐらいでしょうかねえ。フェルゼンシュタインのこしらえ方は真理ですから、真理というものは民族を越え、国境を越えて通用するんです。それをきちっとつかまえた上で、日本人が演じて少しもおかしくないというものをこしらえたいんです。それには訳詞と地のせりふが翻訳劇と感じさせないような、ごく自然な日本語で、それを表現する歌役者がまずもっと自然なしゃべり方と自然な日本語の歌、日本語のニュアンスを伝えられる、日本語の歌の表現力というものがないと駄目なんです。せりふも同じで日本語の言葉のニュアンスが表現出来なくて翻訳劇をやったってどうしようもないわけですから。言葉のこュアンスを徹底的に表現出来るようになってくれば、そうすれば、ほんとうに日本の『こうもり』が出来、日本の『メリー』が出来るわけなんです。関根さんのおっしゃる、しっくりくるためには、今の文化状況の中では、私は「磨きあげ方式」をとって小劇場でやり、中劇場でやり、大劇場でやる。くり返しくり返し同じ作品を上演し続け、演ずる歌役者が観客と戦いながら同じ舞台に何回も立てるという状況をつくらないと、なかなか難しい。「歌役者の学校は舞台ですからね」。こればかりは演出家が教えて出来るものではない。ロングラン出来る文化状況は今の日本ではまだまだ出来ない。

関根 日本はもっともお金がありそうでいて、文化にまわってくるお金が少ない。会館とか劇場とか公立、民間含めて全国で2400館ぐらいあるらしいですから、それだけあったらもっといろんなことが出来そうな気がするんですけれどねえ。

寺崎 ソフトに出す文化予算がほんとうに少ないんですからね。日本は目に見えないものにはお金を出したがりませんからね。ヨーロッパでは「文化は心の福祉、精神の糧」が自弊の理で文化に税金を使うのは当り前のことなんですがねえ。オペレッタは“金食い虫”ですから、20年たっても少しも変らないのはひたすら“金”との戦いですよ(笑)。

関根 とにかく20年間、ここまで続けてこられたのは大変なことだったと思います。日本の場合まだまだ難しい状況ですが、これからもほんとうの歌役者を多数育て、演出家の後継者、更には台本作者や作曲家も育てていって頂きたいと思っています。

寺崎 後継者を育てながら理想に向かって一歩でも近づき、観客をほんとうに感動させる舞台をつくるために頑張ります。今日は貴重なお時間をありがとうございました。

 

 

 

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