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も五線紙と鉛筆だけ-。

シュトルツの生涯そのものがオペレッタみたいだった。10才の初恋に始まり、59才で“唯一の理想の妻”のアインツィさんと永遠の愛を得るまでに美しい四人の女性と結婚しては離婚している。シュトルツは1899年、ヨハン・シュトラウスの死の直前に出会い開眼し、オペレッタや、軽い、でも深い音男の作曲家になろうと決意。1904年、最初のシャンソン「セアヴス・ドゥ」が大ヒット、翌年、テアター・アン・プア・ウィーンで『メリー・ウィドウ』初演の指揮をし世界的に大ヒットという幸運の星の下、デビュー。以後、作曲と指揮の二筋道を貫く。そして三番日の妻に入れあげて破滅、新天地を求めてベルリンヘ。彼は、新しい芸術の沸騰するベルリンで、その波に乗り、いや乗ったのではない。オペレッタに、ウィーンのオペレッタ映画に、ヒット曲に、その波を創り、再び世界のシュトルツとなつたのだ。しかし、その一番脂ののった時期に、ナチスが黒い翼を拡げる。ナチスは彼を宣伝に使おうと、甘言を弄するものの抗し、ベルリンを脱出、四番日の妻とパリヘ向かう。だが黒い翼はパリにも延びていて巻き込まれ、その上、四番目の妻の裏切りからすべての財産、パスポートまで失い無国籍にされ収容所に入れられ、凍てつく冬のサッカー場に放り出される。その時、音楽の神は20才の美しい法律学生アインツィさんを遣わし、死の寸前でシュトルツを救い出す。アインツィさんはまさに守護天使であり、蘇ったシュトルツは五度目にして遂に永遠の愛を得、二人は新天地ニューヨークで第二次大戦のさ中、ウィーン音楽の普及に当る。戦争が終るや、1946年直ちに帰国、シュトルツは敗戦に傷ついた祖国の人たちの心を、心暖まる彼の音楽で癒す。1975年6月27日、ベルリンでレコード録音中に倒れ、不帰の客となる。享年95才。

 

(財)日本オペレッタ協会創立20周年を記念して

1993年3月、日暮里サニーホールでの当協会公演、拙作『二人の心はワルツを奏で『ローベルト・シュトルツの青春』は満員の観客を集め大反響をよび、この公演で改めてシュトルツの音楽が、日本人の感性にいかにぴったりかが分かった。そこで、第二弾として1994年3月、シュトルツ・オペレッタの代表作『春のパレード』を日暮里サニーホールで日本初演。圧倒的人気を博し連日超満員となった。ちょうど映画化されてから60年目、舞台化されてから30年目という記念すべき年であった。そして1997年、当協会創立20周年にあたり、“美わしき五月”に祝祭気分横溢の『春のパレード』を完全上演する。今回も、当協会の目指す人間の音楽劇、ムジークテアターに共感する歌役者、スタッフが揃った。ハンガリー娘マリカは春の息吹きのように初々しい歌役者であってほしい、と20周年記念事業の一環として全国的にオーディションを行った結果、山田綾子に決定。その恋人の軍楽隊伍長で鼓手のヴイリーには、96年秋『こうもり』のファルケ役で進境著しい坂本秀明が初演に次いで再度挑戦。ウィーンの人気オペレッタ歌手ハンジ・グルーバーには、『こうもり』のロザリンデで大好評を博した宇佐美瑠璃がウィーン情緒たっぶりの歌を聞かせてくれる。ハンジと身分違いの恋に悩む軍楽隊中尉グストルには、これ又『こうもり』のアイゼンシュタインで歌役者の真骨璃を見せた近藤伸政が再び挑み、フランツ・ヨーゼフ皇帝には日本のオペラ・オペレッタ界の大ヴェテラン佐藤征一郎、パン屋のマダムには当協会には欠かせない存在感あふれる木月京子、彼女を慕う初老の宮廷顧問官ノイヴィルトには、『こうもり』で飄逸な看守フロッシュを演じて舞台をさらった阿部六郎、軍楽隊長ミッターマイヤーには、女性ファン激増のチャーミングなテノール平田孝二、おかしな男やもめの床屋スヴォボダには、劇団NLTの主宰者で主演俳優の川端棋二、宮内庁長官夫人クロティルデには同じNLTの主演女優木村有里が当協会初出演、ベルリンから来た可愛いパン屋の見習い少年には初演と同じ新進女優村田友里。床屋の五人姉妹にはお馴染みの沖千里ジャズダンス教室の子供たち。それに日本オペレッタ協会合唱団、横井茂率いる東京バレエグループ、日本オペレッタ協会管弦楽団が渾然一体となって見事なアンサンブルを創り、当協会ならではの音楽とドラマがしっかりと結び合った楽しいオペレッタだ。スタッフは、台本・演出・寺崎裕則、演出・ステージングは藤代暁子。そして音楽監督・指揮は、私の師匠であるワルター・フェルゼンシュタインが率いるベルリン・コーミッシェオーバーのオーケストラで活躍した上垣聡が、オペレッタで日本デビュー。訳詞・滝弘太郎、バレエ振付・横井茂、新井雅子、美術・川口直次、照明・奥畑康夫、衣裳・畑野一恵、メイク・ヘア・清水悌、音響・山北史郎、演出補・米澤建治、演出助手・荒木文司貴、副指揮・角岳史、舞台監督・小松充、音楽監督補・榊原徹、プロデューサー・清島利典というお馴染みのチームワークで創作にあたる。

 

機械文明、生活合理化、急速な経済発展で人間らしい情感が失われた「心の不在」「愛の不在」の現代。“春の祭典、祝典”にふさわしい華麗でダイナミックなオペレッタ『春のパレード』が、そんな時代の心のオアシスになれば、と願っている。

 

 

 

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