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あって、中国人はみな数世代が同居している思い込む人も多い。ところが実際そうではない。歴史的に見ても、ごく一部の裕福な家族か、資産をもつ家族のみが数世代同居し、傍系が交錯する大家族を作っていただけである。史書によると、中国で数世代同居が始まったのは、漢代にさかのぼるという。史書は、数世代同居して分家しない家族のことを「孝義」と書き記しているが、実際には、数世代同居は一般的な現象ではなかった。伝統社会においても、大家族は少なかっただけではなく、本当の「天倫之楽」もまた希少でしかなかったのである。『紅老夢』も『家』、『春』、『秋』に描かれている世界は複雑な人間関係が絡み合い、絶えず家の中に権力争いや嫁姑の不和があり、決して「天倫之楽」とはいえなかった。

ではなぜ中国は数世代同居をずっと理想としてきたのか。これは、封建社会における家父長制と関係がある。封建社会においては、下は家族から上は国家まで家父長制をとっていた。家族の中ではひとりの男性が家長として一家を統率していた。形式的にもこれが父権であり、夫権である。

このように、封建制のもとでは大家族が理想とされていたのであるが、実際にはそれが一般的な現実であったのではなかった。要するに、数世代同居は歴史的に広く見られた事実ではなく、あくまで支配者が公認する理想に過ぎなかった。

しかし、直系家族や3世代同居は今日でもよく見られる。近代化の進展や住宅事情によって、少家族化も急速に進んでいるが3世代同居もかなり多い。上海市の世帯規模は全国で最も小型化し、市区部では平均一世帯3人未満であり、「一人っ子」証明書を保持する夫婦も全市で230万カップルに及び、「4:2:1」の世帯関係が広く形成されている。21世紀には、一人っ子の親の扶養問題が深刻な社会問題となりそうである。家庭養老の機能はいま以上に弱まり、家庭では高齢者の看護や介護を支えることはできなくなると予想される。

ところが、家族が少人数化したとはいえ、親子の相互依存と協力には相変わらず強いものがある。上海市の女性は男性と同じように職業を持つ者がほとんどであり、しかも働く時間も男性と同じである。そのため、家事をする時間が少なく、親夫婦がもし定年退職して、健康であれば、若い夫婦は結婚して独立した後も、夕食などを親の家へ食べに行くことも少なくない。

 

 

 

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