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上海市では1950年代から事業所による年金制度を作り、勤めた経験のある人の定年退職後は、それによって保障されるようになった。ところが、高齢者の心理状況は、家庭や家族との関係に大きく影響されていた。しかし、こうした高齢者心理とは別に、急速に社会は変動し、核家族化は進行した。一人っ子政策の浸透は、今までの「父母在児遠行」(両親が生きている間には子どもは遠くへ行かない)などという伝統的考え方も次第に崩れ、多くの若者がより良い仕事を求めて、広く他の地域に行き、親元から離れていく。

上海市老齢科学研究センターとフランス社会老後保険基金会は、1994年に「21世紀の高齢者」(現在中年である45〜54歳の人)に対して老後の生活様式についての希望調査を行なった。それによると調査対象者1,800人のうち、1位は「家で配偶者に世話をしてもらう」(43%)、2位は「老人ホームや介護院に入所する」(19.67%)、3位は「家で子どもに世話をしてもらう」(15.29%)であった。

同じ質問で1990年におこなった調査では、「子どもに世話をしてもらう」が1位であった(『老年半文集』1990年259ページ)。その二つの調査からも、老後の生活様式に関する考え方は中年者と高齢者とでは違いがあるものの、ともに家族関係のある老後生活を望んでいることが分かる。

しかし、少子化と核家族化、そして長寿の結果、上海市では「4:2:1」(2組の老夫婦4人、夫婦2人、子1人)のパターンをみると、真ん中の世代は自分たちの親の面倒を見て、また子どもの扶養をする。そして老後生活時期には、日常の世話を子どもに頼ることは難しいと思うのは誰しもであろう。したがって、子どもの苦労を考えて、自活できなくなったら、施設に入所することになると考えるのが、この真ん中の世代、21世紀の高齢者であろう。

(5) 家族形態の変化と高齢者

1) 「4・2・1」の世帯形成

中国の伝統家族の多くは数世代同居による大家族であり、年寄りが孫らに囲まれる「天倫之楽」(大人数の一家団果)が望ましいと考えてきた。こう考えるのは中国人だけではなく、外国人も同じように考え、これを中国の家族的伝統と見なす者もいる。大家族を描く小説も数多く、その中の代表作は曹雪芹の『紅楼夢』、巴金の『家』、『春』、『秋』3作、老舎の『四世同堂』などがある。これらの名作の影響も

 

 

 

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