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(4) 高齢者扶養に関する意識

上海市には政府にすべて依存して生活している高齢者は、前述の「三無老人」しかいない。大多数の高齢者は長年蓄えた貯蓄や子どもの支援または年金によって生活している。市当局は「我が国はまだ発展途上国であり、家庭養老は当分の間続くべき」であると認識し、若い世代に高齢者を尊敬し、親を扶養するよう常に呼びかけている。と同時に、大勢の高齢者は家庭で子女に支えられ、老後を過ごすのが望ましいと思い、施設で晩年を過ごすのは余程仕方がない場合以外は、避けたいと思っている。

しかしながら、少子化によって若い世代の人口が親世代のそれよりもかなり減っているので、一部の高齢者は不本意ではあるが、費用を子どもや養老金依存しながらも、老後を施設で過ごすこととなる。では、現在の上海の高齢者は家庭養老と高齢者施設についてどのように認識しているのであろうか。

 

前述のように、中国には昔から家族による高齢者扶養の伝統と慣習があった。家族が互いに責任をもつ中国の家族では、親は子どもを養育し、子どもは親の老後の面倒を見ることによって、相互に依存しあうようになっている。要するに、若い者が高齢者に頼るばかりではなく、高齢者もまた若い者に頼り家族や子どもに頼って、老後を過ごしてきたのである。昔から今日まで子どもが親を扶養するのは道徳的規範であり、法律規範でもある。若し老親を扶養しなければ、「親不孝」と思われ、世論に批判され、「10の許されざる罪」の1つとして厳しい裁きも受けることになる。1950年代以来、憲法と婚姻法民法通則、相続法などの法律によっても、敬老、親孝行が規定されている。それ故に、中国では高齢者福祉事業があまり発達しなかったともいわれる。しかし、高齢者が安心して老後を送るためには、経済を発展させると同時に、やはり高齢者福祉を充実させ、年金制度や社会保険制度を普及しなければならない。

勿論高齢者問題には、経済のほかに「精神的慰め」の課題がある。晩年になって子どもや孫に囲まれ、話を楽しみ、賑やかに晩年を過ごすのは昔から高齢者の最大な望みであって、現在でもそのような考えをもっている高齢者は少なくない。子どもが仕送りだけを行い、他に何もしなければ、高齢者はむしろ淋しさが増すとも言われる。

 

 

 

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