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やや違った視点から文化の問題、特にアジア人のイメージの中にある個人というものの再検討が必要ではないかということだったと思います。

それでは最後に五百旗頭さんのほうからお願いいたします。

 

●五百旗頭 真(セッション4座長)

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先ほどの第4セッションの最後に、私はローカルな土着の文化というのは、むしろグローバリズムの中でこそ輝き得るのだということをも申しました。そのことは日本史の経験に基づいてそう思っております。50年、150年、500年を超えて1500年かもしれないですが、古い時代に日本は偉大な中国文明のインパクトを受けて、それを熱心に学習して、唐、天竺から律令国家の制度や仏教を学び、それを触媒として日本史の飛躍的な進展を持つことができました。それでいて独立を失わずにやがて日本化していくという経験を持ち得た。同じことを19世紀、西洋文明が襲来した時に始めたわけであります。西洋から猛然と学習しながら洋行を行い、それをてことして近代化に成功を遂げた。

外の要素との接触ということによって、決して他者になってしまうわけではない。それを学び触媒とすることによってむしろ自己発見するのだ、潜在的でしかなかった自分の可能性を自己発見し、そして自己開発するのだと、そのような楽観論を我々は持ってもいいのではないかというふうに、このたびのシンポジウムで感じました。

その3度目の波は恐らく戦後でありまして、アメリカニズムと言われましたが、むしろ現在のグローバリズムまで合めて、戦後の自由な国際システムの中でそれに触れ合いながら、恐らく何百年後の人々、もし地球があったとしてですが、日本史の3度目の大きな躍進期は戦後のグローバリズムヘの対応の時期であったというふうに言えるのではなかろうかと歴史家として思っております。

それで、その第3番目の局面が意義深いことは、日本のそのような対応をいわばつなぎとして、東アジア全体がグローバルな場での躍進を遂げるという21世紀の歴史へとつながっているということだと思っております。

今、東アジアは経済危機で大変だというので、自信を失う向きもありますけれども、その中でここで行われた議論というのは、一方でIMF処方箋がすべてではないということが口々に強調されました。しかし他方でグローバリズムがいけなかったのだと反省し、反グローバリズムでいかなければならないという類の回答もまた否定されたと思います。なぜなら東アジアのこれまでの躍進は、ほかならぬ国際経済、市場グローバリズムの中でこそ成し遂げられたものであったわけです。

そして、躍進した社会が最初の挫折で終わった歴史はございません。無理といびつさを伴って大きく躍進してきた東アジアはこの危機から学んで、今までも指摘されてきたように、また新しい展開、創造へと向かう。その点でこのたびの危機の中心点から来てくださったピシットさんが積極果敢に発言してくださったことを大変うれしく思っております。お話を聞いて、ますますこの危機から学んで、それがどれだけの期間なのか、1973年に石油危機がまいりました時、日本の大蔵大臣となった福田赳夫は「全治3カ年」を宣言いたしました。これは極めて重症であると、信じられないインフレ、「物価狂乱」と言いましたが、インフレであり、かつ不景気である、この複合的な危機に対処するのは普通の景気調整では間に合わない。あらゆる手段を尽くして3年はかかるという意味で、「全治3カ年」を宣言いたしました。これは立派なリーダーシップだったと思います。

このたびの危機は、もし中国の金融危機を併発しなければ、全治2年、3年ですむのでしょうか。もし中国にまで連動したならば、これは4、 5年ということになるのでしょうか。そして日本までもし崩れたら、これはアメリカも引きずられるかもしれない。そうすれば1930年代の10年の世界恐慌ということになるかもしれない。そうしないための対応ということが重要な課題であり、この会議はそのような瞬間に行われた意義深いものであったと思います。

危機への地域的な対応についても我々は極めて意義深い原理的考察、実際的考察をしたと思います。グローバリズムな十分に管理されない市場の暴力というものに対応するのに、リージョナルな何かが必要であるとしても、それはリードさんの言い方で言えば、国際化の一部とみなし得るものでなければいけないだろうと思います。つまりリージョナリズムが反グローバリズム、反西洋の情念によって動かされるものであれば、結局反動以上のものでしかなく、それは建設的意味を持つとしても、また必ず破壊的な要素を持つことになるだろうと思います。そのことも私は歴史の日本自身の経験から思います。

第1次大戦でウィルソンがグローバルな普遍主義をうたい始めた時、日本の若き指導者であった近衛文麿

 

 

 

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