えない状況にあるのではないでしょうか。
2つ目、そういう中で、現在、世界を席巻しておりますのは、白石さんの言葉を引用させていただきますと「イデオロギーとしての新古典派経済学」ということです。つまり、完全競争モデルというのが経済学の教科書にあり、このモデルに合うように現実の経済を変えろと、これがイデオロギーとしての新古典派経済学だということになるのだろうと思います。IMF、世銀は基本的にはこのようなイデオロギーを主張しています。問題は、それでいいのかということになります。今回の危機は、イデオロギーとしての新古典派経済学は、テキストの中では一応認めているにもかかわらず、現実の政策を提案する時にはほとんと市場の失敗ということを無視して政策提案をしてきています。今度の通貨危機は、規制されない金融市場というのが、ある種の失敗を生むということを明らかにしてくれたわけですから、今度はやはり市場の失敗ということを前面に立てて議論をする必要があるのではないか。
そこで、世界銀行もジョセフ・スティグリッツ氏が副総裁になってから少しずつ考え方を変えてきておりまして、国家を経済システムの中に再度位置づけなければいけないのではないかという議論が始まっております。英語では“ブリンキング・バック・ザ・ステイト”と、そんな表現がよく使われるわけですけれども、政府の新たな役割ということを見直す非常に緊急の課題を我々は今、背負っているというふうに言っていいだろうと思います。
そのことが実は日本の問題に関わってきます。これは最後の論点ですが、日本の問題について3点ぐらい簡単に指摘をしてみたいと思います。
1つは、日本のシステムは本当に古いのかという問題です。イデオロギーとしての新古典派経済学は、日本のシステムは全部だめだ、規制緩和をやって、行政改革をやらなければいけないと。ところが私はベトナム政府から日本がどうやって外国為替管理をしたのかを教えてくれということを言われました。それからものづくりに長期の資金を流す金融システムをどうつくったらいいのか、日本の経験を教えてくれということをベトナム政府から依頼されています。ここで何を言いたいかといいますと、我々日本人は「日本のシステムは古い」ということで、全部否定してしまった。しかしそれで本当にいいのか。日本は自己変革をしなければいけないでしょうけれども、過去のレッスンを正確に、冷静に再検討をする必要があるだろうということが第1点目です。
第2点は、もう少し生臭くなってきますけれども、日本の経済政策の問題です。アメリカにフェルド・シュタインという非常に有名なエコノミストがいます。この人は政権にも近い重要な人物ですけれども、彼が去年の「ウォール・ストリート・ジャーナル」だったと思いますけれども、今度のアジアの通貨危機は日本のせいだという論文を書いております。「日本は内需拡大をしない、それで円安になっている。この円安がアジアの国の輸出を阻害して通貨危機が起こったのだ」と、はっきりとそういうペーパーを書いております。日本は内需拡大をやれということを非常に強く指摘をしております。
それから、数年前、「アジアの奇跡という神話」という論文を書いて世界を震え上がらせたMITのポール・クルグマン教授も口をすっぱくして「日本はインフレを起こす必要はないのだから、なぜ日銀は日銀券を増刷しないのだ」と、言い続けております。
間違いなく日本がどういう経済政策を取るかがアジア経済の動向と非常に深く連動してきます。この点を自覚した経済政策を日本が取らなければいけないだろうと思います。ところが我々の意識にあまりそれがない。これが2点目です。
3点目は、ピシットさんのプレゼンテーションで、例えばアジアの通貨ゾーン、あるいはアジア間の貿易に対するアジア間通貨の使用といった提案をされましたし、あるいは篠原さんが言われましたように、円の国際化の問題、こういったことが今、非常に大きな問題になってきているわけです。これは別の言い方をしますと、日本はいよいよ、 これまでのようにODAを2国間ベースで出すだけといったやり方から変わらざるを得ない。つまリアジア地域のエコノミックバランスとか、安定性を考えたような制度上の枠組みをつくる努力をしなければならない。どういうスタンスと、どういうフィロソフィーでこのアジアの問題に取り組むのかということが日本にとって一番重要な問題になってきているのではないでしょうか。あまり我が国がそういう方向で積極的に動くと、日本の国内からアジア主義の復興であるという意見が出てきそうです。そういう面があります。しかし本当にそういう批判をするだけでいいのでしょうか。そのためにも、我々はここ四、五十年、過去に日本がたどってきた道をどう評価するのか、真剣に考えてみる必要があるでしょう。
●座長:安藤
どうもありがとうございました。
これは最初に報告された第1セッションのパカセムさんの論点とある意味ではオーバーラップ、相互補完するようなご提案でしたけれども、青木先生の場合は