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リー在住の30代のインド人女性小説家が英語で書いた作品ですが、これがランダムハウスから出版されて、アメリカ、イギリス、オーストラリアでも大ベストセラーになって、今現在世界で最も権威のある文学賞だと言われているイギリスのブッカー賞を取ったわけです。

書いてあるのはケララ州の双子の姉妹の話、非常にローカルなエピソードなんですけれども、それが英語で書かれたことによって世界中に発信されて、イギリスの最高のブッカー賞を得たというのも、これは何であろうかと、私は思うわけです。

文化の収奪と言うのは簡単ですが、我々がアジアの中でそういう価値をなかなかアジア人のものとして評価できない時に、ヨーロッパが先取りして取ってしまうというのを嘆くのか、それともいいやと思うのかというのが一つの大きな問題としてあると思います。

ただ、文化の創造という点では私が昨日申し上げたように、我々アジアの文化というのは、すべて土着的な地域の文化と、アジア的なインドあるいは中国の大文明の普遍的な文明と、それから西欧的近代的な文化と、それと現代というものが寄せ集まってできた混合文化であって、そのどの一つの要素がなくなっても現在のアジア文化は成立いたしません。これはどこでもそうです。

ですから、そういう点では混合文化あるいは「雑種文化」ということを我々の一つの大きな特徴とするわけですけれども、そこにも現在、新しい風が吹いていて、例えば1週間はど前に東京で国際シンポジウムがあり、そこで香港中文大学教授のデービッド・ウー氏が話すには、今や日本のアニメ、漫画が世界を席巻していると言われるわけですけれども、アニメーションが香港の学生にも受け入れられている、その場合に広東語とか中国語や英語に翻訳されていない、日本語で書かれたマンガそのものがみんな読まれている。つまり日本語が読めない学生ばかりですけれども、絵とか日本人の描いたマンガのスタイルによって内容を感得して、それに非常に共感を寄せるというようなことを言っておりました。マンガが翻訳されるのは、韓国でもいろいろなところであるのですけれども、そういうふうに日本語で書いてあるものも言わば絵を通して、アニメを通して共感を呼ぶというような現象が起こっているということです。

またアニメだけではなく、音楽、映画、あるいは絵画、または小説、文学の場合ちょっと難しいですけれども、それらが今、国境を越えてさまざまな形で製作されています。例えば香港のプロデューサーが台湾の資金で北京で映画をつくって、東京の府中のスタジオでそれが現像されるというようなことが起こっているわけで、やはりこのアジアのボーダレスな文化協力という現象も見過ごすわけにはいかないと思います。

ただ、それを伝えるのはと言うと、多くの場合はアメリカの資本で、配給会社だったりしているわけで、こういう状態を単に我々のオリエンタリズム的な見方で、収奪されているとかそれだけで談じるわけにはいかない。もっと積極的な文化創造がそこに行われているというふうに考えたほうがいいと思います。

それで、衛星放送とかマスメディアの力というものが国境を越えるということはあるわけですけれども、これはアジア各国、必ずしも言論表現の自由が行き渡っているとは言えません。しかしこういうメディアの力によってかなり変わっていく部分があることは認めないわけにはいかないと思います。

もう一つ都市という問題があります。先ほどちょっと出たかもしれませんが、まだ全部完成はしていないけれども、クアラルンプールに昨年、ペトロナスツインタワーという世界一高い巨大なビルができたわけですが、これはアメリカのシアーズタワーというシカゴのビルを抜いて452.8メートル、86階まであります。香港、台北あるいはシンガポール、そのほかどこに行かれてもいわゆる20世紀の一つの大きな特徴であった摩天楼というものが今は完全にアジアの都市のものになってしまったと、デリーあるいはムンバイ、イスタンブール、そのほかにもそういうビルができかけているのですが、こういう現象をどうとらえるかというのが大きな問題です。

これは経済効率は必ずしもなくて、マレーシアのビルなどでよく言われているのは、マハティール首相の国家的な威信をかけてつくるとか、また2001年には上海に500メートル、100階建てのビルができる予定ですが、それは江沢民首席と中国人民の威信をかけてつくるというように、経済とは必ずしも関係がないようなレベルでの一種の国家の力の象徴としてつくられている部分もあるわけです。

ですから、これはちょっと疑問であって、こういう都市づくりにもっとアジアの知恵とか価値観というものが凝集できないかというふうに思っておるわけであります。

もう一つは、都市は上に上がってずっと高くなっていくのですが、同時に下界では都市難民というのがものすごく増えているわけです。ですからバンコクに行っても、バンコクの800万人口の200万ぐらいは都市難民だと、イスタンブールでもジャカルタでもそうだ

 

 

 

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