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が軽いというふうに一般に思われておりますが、アジアの現代を見てみますと、「文化を制するものが世界を制する」という気持ちになるのです。どうしてかといいますと、例えば今、日本でもやっていますハリウッドの映画で、「チベットの7年」という映画があります。これはナチスにかぶれていたオーストリアのハインリッヒ・ハラーという登山家がヒマラヤ登山に非常に野心を燃やして、エゴイズムの塊のような人なんですけれども、これがインドで登山の準備をしている時に大戦が勃発して、英植民地であったインドで敵国民として収容所に入れられて、それから脱出してチベットに入って、若いダライ・ラマと出会う。そのダライ・ラマに会って魂あるいは精神の広さというもの、あるいは仏教的な教えの寛容さというものに目覚めて、非常に寛容な人間になってまた帰っていくという話なんです。

これは全くオリエンタリズム的な映画と言えば一言で済ませられるし、ハリウッド製のアジア理想論というふうにも言えるのですが、私は非常にいい映画だと思っているのです。中でも特に中国がチベットに侵入してチベット文化を破壊してしまうという本当に呵責のない描写がありまして、チベット文化を破壊する中国軍、中国人という扱いなんです。ですからこういう扱いに対して、97年秋の東京映画祭で、中国政府はその作品を上映するならば我々は代表団を送らないということで、映画祭に参加しなかったのです。見ると怒るのは当たり前だと思うくらいの描写ではあるのですが、ダライ・ラマは現在、ラサに帰れないわけで、そういう政治的状況があることを我々は知っておりますし、大体映画の描写は、真実ではないかもしれないけれども、そんなに真実からは遠くないとも思わせるところがあります。

私が言いたいことは、政治的なメッセージも一つありますけれども、同時にチベット仏教徒のよさとか、ダライ・ラマの教えの深さというような「アジア的な価値」も結局アジア人の間ではなかなか見出せない。むしろハリウッドが収奪していく。そして奪われたものが我々にとってまた映画の鑑賞、文化理解として帰ってくるというようなことで、しかも「アジア的価値」と言いながら、アジア人同士はなかなかお互いの文化の価値というものを尊重しあわないという現実があるということです。

だから、文化という場合も、そういうオリエンタリズムだとか、アジアを薄っぺらい見方でいいところだけ描写してアメリカとかヨーロッパの人々の嗜好に合うようにつくり変えていると、ハリウッド的だと批判することは非常に簡単なんですけれども、実際そういう価値をいまだハリウッド映画でアジアの人間は見ているという、また外部から与えられていっているという現実は一つ考えなければならない。

アメリカの一人勝ちというのは、経済でもいろいろと言われているわけですけれども、アメリカがどうして強いかということを考えますと、結局これは文化の強さなんです。つまリアメリカ的な生活様式、映画も含めましてそれこそ香港でも台北でも、あるいはソウル、ジャカルタでも、Tシャツとジーンズと、ナイキのスニーカーを履いて、アメリカの音楽を聞いてというスタイルが定着している。そしてマクドナルドに行ってみんな家族団欒で食事をするというものと、今の映画と音楽と、それからまたビル・ゲイツがつくりだしたコンピュータを一つの大衆文化として世界に提示するという方法です。ナイキとかスニーカーの文化と今、我々が日本でみんな使っているアメリカ的なコンピュータの世界というのはつながっているのです。現代文化として提示されているわけで、日本の富士通とか、いろいろなところがもっと性能のいいものを実は持っていると言っても、それを文化として世界に発信できないが故に負けてしまうのです。

アメリカの軍事力も政治力も強いのですけれども、それが文化の発信によって保障され、裏打ちされるが故にアメリカの圧倒的な存在感というものが出てくるわけであります。

それはマーケット、単なる消費文化、消費経済あるいは消費市場の問題ではないかと、市場によって回転させられているだけだと言われるかもしれませんが、その世界市場に合うような文化をつくり出している、表現を与えているというところがまさにアメリカ的であって、その点を我々は見過ごしてはいけないのではないか。だから文化というものが制する。ロシアとか中国が大国であっても振るわないのは、我々が共有できるような現代文化をそこから供給されないからです。そういう問題があると思います。

文化にはいろいろな面があるので、もう私は言いませんが、これまでナンディさんとか、いろいろな人が文化についてお触れになりましたし、 リードさんのいわば文化的なナショナリズム対民主主義の駆け引きとか闘いというのは、多くの場合、文化の摩擦とか文化の紛争によっても問題が起こってくるテーマであります。それが第1点でございます。

例えば昨年度出版されたベストセラー作品で、アランダーティー・ロイという人の「ゴッズ・オプ スモール・シングス」という作品があります。これはデ

 

 

 

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