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は一体何なのかというお話をもっと聞きたいなというふうに思いました。

 

●座長:五百旗頭

ありがとうございました。

インド、韓国、オーストラリア、それぞれ自分のお国ぶりに即した話をしていただいただけに、今の青木さんの個人の役割の強調は有益と存じます。国家、市場、社会、文化があるとしても、その中で働きかけ、つくり、応答していく個人、これがやはり究極の問題なんだろうと思います。

 

●田中 優子(法政大学第一教養部教授)

今の青木さんの個人という話にも関係があるのですが、李さんのお話を伺っていて、国家、市民社会、市場という関係、特に市民社会、大変大事なことをおっしゃっておられると思うのですが、しかしもう一つそれは一体実際にはどういうことになるのかということをもう少し伺いたいと思います。

例えばこれを個人ということの中で考えてみると、一人の個人が国家のメンバーでもあり、市民社会のメンバーでもあり、市場のメンバーでもあるわけです。そうすると、その中で矛盾が起こった場合、その矛盾というのは個人の問題の矛盾になるわけです。そういうことがまた関係の中に今度は還元されていくということがあると思います。ですからそのような分析が何か実際に私たちがこれからどうしたらいいかということ、よく理解を助けることもあるけれども、逆になってしまうこともある。いつもそういうことに気をつけなければならないと思うのです。そのことを一つ伺いたい。

それからもう一つ、リードさんがおっしゃったことで、大変大事だと思ったのは、例えばグローバル化によって文化が壊れるという側面もあるけれども、また逆にグローバル化を例えばモダナイゼーションというふうに考えた場合に、それによって地域の文化が守られたり、生き延びられたりするということ、これもまた対立的な観念というものを私たちがそのままにしておくのではなくて、逆にこれを考え直していく、その対立的な観念の枠を壊していくということによって、もう少し別の方向から考えることができるようになるのではないかという意味で、非常に刺激的だったということです。

私の質問としては、先ほどの個人の中で何が起こるかということです。

 

●座長:五百旗頭

李さんへの質問、リードさんへのコメントは恐らく田中さん自身の研究、江戸社会というのが、実は意外に国際性を持っていて、そのことをもって江戸時代の新しい姿を我々に魅力的に教えてくださっているというふうに伺いました。

 

●ピシット・パカセム(タイ、タイ投資証券会社会長)

資本主義、社会主義、共産主義のもとに登場した、すべての経済原理の再評価を促す著書が幾つか出版され始めています。しかし、現在はっきりしているのは共産主義の崩壊です。共産主義の崩壊によって資本主義が絶対的な経済原理として、再認識されだしています。「資本主義」とは何かをテーマとする、厖大な数の本が出版されています。ジョージワシントンのカトリックの僧侶が、1950年代に非常によい本を書いています。

準資本主義社会が存在することを多くの人々が見落としていました。僧侶は共産主義が崩壊し、世紀末に何かが起こることを予言し、準資本主義社会に関する非常に有名な著書を書いています。また、MITビジネススクールの研究員レスター・サロー氏が、最近新たに「資本主義の未来」という、極めて興味深い著書を執筆しています。グローバリゼーションと市場のメカニズムを結びつけて考える傾向が現在あります。しかしレスター・サロー氏の指摘にもあるように、その表面下には私たちの生活を強烈に支配する、おびただしい数の独占が存在します。現在これらの独占的な力を打ち砕くことは不可能です。しかし、現在勃興しつつあるのは明らかにこのような独占的タイプの資本主義社会です。それがグローバリズム等の新たな商標名のもとに、あるいは米国、IMF、WTOの旗艦のもとに存在しています。だからこそ、次の世紀の市場をどのようなものにしたいかを検討する必要があるのです。

アジアは現在、様々な危機に直面していますが、将来を見通してゆくことをしなければなりません。アジアは厖大な人口をかかえ、成長し始めている資本主義社会です。しかし、アジアの人口の半分以上が、今も貧しい生活状況にあります。アジアの成功には暗い側面があり、その成功もいまや崩壊してしまったのです。しかし、我々は成功のこの暗い側面を忘れてはなりません。次の世紀では、どのような哲学や経済を追求すべきかを問うのではなく、相互関係のよリー層のバランスを図ることが重要となります。どのような方法をとるかよりも、どのようなパターンを展開するかが問題となるでしょう。発展、成長率、成長パターンの数量的な側面にしか関心を払わないのではなく、未来の成長パターンヘよリー層の関心を向けるべきです。中国には国家資本主義、「準資本主義」と呼ばれているものがあります。市場だけを支配するというのは

 

 

 

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