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的な取り組みに参加したのです。財団の努力によって実現した今回のような会議を今後も行って行く必要があります。現在私たちが抱えている問題はすべて多極的な問題であるだけに、シンクタンクや、多国間で問題を検討する機会を今後増やす必要があるでしょう。私たちが一同に会すことができたことに対し、財団に感謝して、終わりたいと思います。

 

●座長:五百旗頭

4番目の報告、ありがとうございました。

以上をもってこの会議の総括としたいと思います、ということも不可能でないと感じさせるような見事な分析、コメントをいただきました。

それでは、 5番目の報告者をインバイトしてよろしゅうございますか。

 

●白石 隆(京都大学東南アジア研究センター教授)

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3点申し上げたいと思います。それですべて実は今日のお2人の報告にもちろん関係するのですけれども、今日のお2人の報告というのは、実は我々が現在生きている社会だとか、歴史だとかいうものを考える時に、常に使う大きい4つの概念、国家、市場、社会、文化というこの4つをまともに取り上げたペーパーで、今日の午前中までの話、昨日の午後は文化の話でしたが、それから今朝のセッションも、基本的には国家と市場の話をしていて、それで文化の話は歴史の話と一緒に一回は出てきましたけれども、それが今回もう一度浮上した。それから社会の問題はこのセッションで初めて出てきた。

つまり、我々はグローバライゼーションと言う時に、ともすれ市場と国家の話だけをしたがる。いつも文化であるとか、社会の問題というのは大事なんだけれども、それがうまく議論に乗らないので、やはりいるから一つセッションを入れておこうかと、そういう発想にはなっても、なかなか同じ比重で市場と国家とを扱うということはどうもできない。それが今日のセッションではうまく出てきたというのが一番重要な点だと思います。

それを申し上げた上で、それでは私がお話を聞いていてどういうコメントが考えられるか、3つ申し上げます。

まず第1点は、ナンディさんはグローバライゼーションとは別に今、始まったことではないのだと、コロエアリズムというのが昔あったじゃないかというふうにおっしゃられまして、それは確かにそのとおりなんです。ただ、コロエアリズムと現在のグローバライゼーションには一つ決定的に大きな違いがあるのではないか。それは、つまり植民地主義と文化あるいは植民地支配と文化と言った時に一番大事だったのは権力の問題です。つまり文化というものはどういうものか、例えばどういう言語が正しい言語であって、それはどういうふうに書かれて、あるいは発音されるべきかと、 どういう言葉はまっとうな言語ではないかと、そういうことを決めたのは権力であります。ですからその意味でコロエアリズムと文化という文脈の中で問題になったのは、権力というものが文化をどういうふうに形づけていくのかという問題だった。

ところが、現在我々が問題にしておりますグローバライゼーションあるいはグローバリズムの中で問題になっているのは、恐らく権力の問題ではないだろうと、むしろ市場の問題だと、としますと、例えばナンディさんのベーパーの一番最後のパラグラフの上から2行目、私は英語のほうを見ておりますけれども、そこに大事なことの一つ、要するに“the empowerment of the non-Western cultures”、エンパワーメントという言葉を使われています。エンパワーメントというのは、要するに文化に、非西洋的な文化に力を与えるということで、これは少なくともまだ言語の上ではパワー、権力の問題として考えておられる。

本当にそうだろうか。つまり相手が植民地支配であって、そこで文化の問題を考える時にはエンパワーメントという言葉は非常に重要な鍵になる概念だと思います。現在のように市場と文化の関係が重要な時に、ではエンパワーメントとはどういう意味なのか。市場の中で売れるような文化をつくるということがエンパワーメントなのか。それがそもそもナンディさんが考えておられるようなことなのかというところが、私の質問であり、コメントであります。

次に第2は、社会の問題ですけれども、李先生のおっしゃったように、社会の問題というのは非常に大事でありまして、国家に対する社会のエンパワーメント、社会が国家に対して力をつけるということは、それは要するに民主主義的な正当性が重要なんだと、そういうものがないと、現在ではもう国家、政府というものはこの非常なグローバライゼーションの時代を乗り切れないのだというのが重要なメッセージだったと思うのですが、同時にここでも社会と市場、つまり国家と社会ではなくて、社会と市場という関係を見ますと、どうもこのグローバライゼーションの時代に、例えば我々は、この場合の「我々は」というのは、例えば日本に住んでいる住民は、日本人も、それから非日本人の人もいますけれども、我々はどういう社会をこの

 

 

 

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