族政策は、市民に一律の待遇を図ることでなく、個々の待遇を図ることであり、それぞれの文化には独特な価値観があり、つまり、絶滅の危機に瀕しているため、保護と特定の権利付与を行う必要がある価値を備えたものとして、各文化を待遇することです。もし民族問題が一国だけの事情であったり、国際社会に訴える能力、異なった国々の民族と意見交換をする能力を民族が備えていなかったとしたら、土着民族の動きは認知されることはほとんどなかったでしょう。
民族のネットワークは大きなプラスとなりますが、同時に、国民国家にとってマイナスとなる、国民国家の根底を揺るがすような極めて複雑な社会構造をも生み出します。国の根底を揺るがす、今一つのはっきりとした要因が観光事業です。インドネシアの観光事業が良い例でしょう。インドネシアの幾つかの文化は、観光事業があって初めて、生き残ることができ、ナショナリズムや幅広い国民教育、都市化、宗教の近代化を促す巨大な力となることができました。観光事業の勢いには目覚ましいものがあり、観光事業には近代化したもの、輸出と同じように勢いをもつもの、インドネシア半島各地の多くの民族に大きな誇りを感じさせるものがあります。世界のグローバリゼーションの基本要素となっている圧力という手段に訴えることで、民族は生き残りができるようになってきています。
私が最も時間を費やして実施したインドネシアの文化史の追跡調査で判明したことは、それぞれの地元の土着文化が抑圧されていた時代は、現代ではなく、むしろ、国民国家と近代化の名の下に、文化に対する破壊行為が数多くの国々で顕在化した1945年から1965年までの戦後期であったという点です。言うまでもなく中国は、世界で最も豊かな文明を築き上げた国ですが、政府がそれを極めて意図的に切り捨てました。とはいえ、戦後期には、中国以外の多くの国々においても国家の建設が進められ、思い切った改革によって国民国家が築き上げられた時代でした。国家的なもの、近代的なものへ向けて猛進したそのプロセスでは、膨大な量の文化資産が失われました。しかし、文化の多様性を容認するようになって、国民国家の脅威は弱まり、グローバリゼーションの進んだ現在、バスク、スコットランド、ウェールズの地方主義運動がやっと盛んになってきたのです。
四点目は、グローバリゼーションと対立するものというより、むしろその一部と見るべき地域主義について取り上げます。相互依存がますます深まった第二次大戦後の世界に必要なことは、グローバルなレベルでは対処できない問題に対して一層多極的に取り組むことです。米国ははっきりとした態度取ることを控え、国連が抱える問題への取り組みにも常々消極的です。通常、国連の抱えている問題は、地域的かつ局地的に取り組むことで、最も有効に解決されます。というと、アフリカにおいて成功を見なかった数々の努力を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。ボスニアにおけるヨーロッパの試みも成功しませんでした。しかしながら、たいていの場合、最も有効な対処法は、地域主導型の対処法なのです。多少なりとも成功を収めたといわれるものには必ず問題があるものです。
先日のブーゲルヴィルとパプアニューギニア間の問題には、米国でも国連でもなく、ニュージーランド、ソロモン、フィジー、そしてオーストラリアが関与し、問題解決のために支援を行いました。つまり、地域主導型対処法に必要とされているのがASEAN、AFTA、APECのような機関です。このような機関は、私たちが築いていかなければならない国際秩序には絶対に必要なものでしょう。これらの機関を開放し、互いにオーバーラップした形にしなければなりません。一つの機関が単独で一切の問題を解決するというのは不可能です。このような機関では互いの領分というものが必ず問題となります。もし、これらの機関の境界線をはっきり引いて、その境界線で一切を処理しようとすれば、このような機関の領分問題は、更に悪化するでしょう。ASEANの拡大は、今後どのような方向へ発展するのか、他の多くの新たな状況と同じく、全く予測がつきません。加盟国拡大には危険が伴います。多彩な加盟国間で意見の一致が得られるよう調整を図ることは、ASEANにとって今後難しい課題となるでしょう。しかし一方では、ベトナムとビルマが地域に組み込まれれば、大きな利益がもたらされるでしょう。李教授から中国の問題に言及して頂きましたが、中国の問題は、アジアにおける地域主義の問題だと言えるでしょう。オーストラリアは、適度な国土と穏やかな国民気質を持っているため、地域問題の対処は容易であり、アジアの問題とはなりません。地域主義にとって問題となるのは中国です。中国はASEANに参加するのかしないのか、中国をどう扱うのか、が地域主義にとって大きな問題となります。中国の扱い方には極めて慎重にならざるをえません。
最後になりましたが、はっきりと申し上げられることは、財団法人大阪国際交流センターヘの賛辞です。今求められている、ある種の市民社会、地域的かつ国際的な市民社会を形作る上で、NGOなどの国際的な機関が果たすべき役割を、財団法人大阪国際交流センターは示してくれました。私たちは、まさにこの歴史