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ラである市場は、世界に変革をもたらす怪物として今後在存し続けるかどうかは、はっきりしません。私たちが、新たな想像力で、国際的、地球的、かつ、地域的にこのような問題の解決策について考え、絶えず密接な関係を保って世界を見据えながら、創造的に対処することを促すのが、このような会議の役割なのです。

二点目として、経済市場や様々なもののグローバル化によって利益を享受できるよう、金融市場の機能に関して、一層精巧な規制の枠組みを構築することです。市場の開放、経済緩和、国家独占の解体が、商品、情報、労働力の自由な流れやバランスのとれた経済機構をもたらすという考えは、もはや死滅致しました。野放図な自由市場では、強者が弱者を食いものにし、一握りの力あるものが市場を享受し、国家独占がさらに促進されるだけです。

国家の規模が小さくなるほど、カルテルなどを禁止する規制の枠組みが必要になります。多国籍企業や多国籍不況が発生する米国は、独占禁止法とカルテル禁止法が世界で最も厳しく、米国国内で発生するあらゆる種類の独占に対する、監視が世界中で最も積極的な国です。言うまでもなく、この規制によって、米国経済は競争力あるものとなり、比較的低成長で世界経済の中位に位置付けられているのです。小さな国家では、米国並みの規制を実現することは極めて困難です。グアテマラのような事例は周知の事実でしよう。私たちの地域にも数多くの実例があります。日本や台湾の漁業権、マレーシアの伐採権と対抗している太平洋の小さな国々があります。非常に小さな国、財力のない国との取り引きを見た場合、極めて大きな資本力を持つ各種の独占が、絶えず発生する恐れがあります。市場開放を行う場合には、同時に独占禁止法をつくる必要があります。

様々なモデルの車から気に入った一台だけを選ぶことは大変ですが、買える車がたった一台しかない場合には、何の苦労もありません。しかし、自分の読みたい書籍、新聞、情報や、政府や大手企業にとって都合の悪い非公開情報を読めるかどうかは、大変切実な問題です。オーストラリアは、ビルマ、ベトナム、マレーシア、シンガポールでの報道機関の規制に関して、しばしば批判的です。

オーストラリアの報道機関は、多くの面でしっかりしていますが、実際にはマードックとリー・パッカーによる二つのカルテルの手に危険なまでに独占されています。この二つによって、オーストラリアのマスコミの70%が独占されており、極めて危険な状態です。これら二つのカルテルの圧力により、オーストラリアのマスコミの悪化が一層進む恐れがあります。双方とも、効率と競争力をより高めるため、カルテルの一層の強化が必要であるとしており、政治家がマスコミを利用して宣伝効果を高めようとする危険もあります。

オーストラリアには、もう一つ別の事例があります。オーストラリアでは、多元性を備えた書店が十分整っていません。書店の場合は問題がマスコミの場合と逆で、政府は書店の国際的なフランチャイズを禁止する法律を定めています。米国へ行けば、マクドナルド社やペプシ・コーラ社がなくても生活に不自由しませんが、ボーダーズ社やバーンズ&ノーベル社は実に見事な巨大フランチャイズを形成しています。経済の国際化のため、オーストラリアでは最も問題となると思われるマスコミ部門と書店部門の国際化を図る必要があります。しかしマスコミ部門と書店部門のいずれにおいても、多国籍企業グループが市場に占める割合が高く、極めて大きな問題となっています。

三点目として、グローバリゼーションによって文化が失われることがしばしばあります。多くの反発や懸念が表明されています。私は、幾人かの報告者の方々と同様に、この点については楽観的でありたいと思います。グローバルな、アメリカ西海岸的な、つまり、ハリウッド的な覇権が稚立されるという脅威に対して最も厳しく発言している民族は、文化的でないどころか、最も積極的に文化を破壊し、文化のグローバル化よりも自国文化の独特の姿と形の保全を求めるような、国民国家の政治指導者であるという傾向があります。

人や情報の大規模な移動という意味でのグローバリゼーションが世界中で起きている現状を考えると、実際に、多くの地域文化が活性化され、近代化に適した形で生き残ることができることは明らかです。私たちが皆、ある種の近代文化もしくは近代性を共有することを、山崎教授が極めて適切に示唆しておられます。土着文化、古代文化、原始文化は、近代化による変容を被らずとも近代世界で実際に生き残ることができるのです。しかも、これらの二つの実例を考えると、土着民族の動きがグローバリゼーションによって格段に強化されていることがわかります。私がニュージーランド、ハワイ、カナダで会った民族は、実に強力にネットワーク化されていました。民族のネットワークは米国でも非常に強力で、オーストラリアでは特に強力です。これらのどの国においても、土着民族政策は、すべての市民に一律の待遇を図りたいとする国民国家にとっては極めて厄介なものとなります。土着民

 

 

 

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