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というものは必要に応じて唱えたりはするけれども、本心においてはどこかで危惧を抱かざるを得ない。ですから一方においては依然としてナショナリズムが強く残りながら、かえってリージョナリズムというものに対抗するため、リージョンの外との関係というものを求めざるを得ない。それが場合によってはアメリカである。ですからかえって韓国が国際機構などに積極的に取り組もうとするのは、リージョナルな枠で閉じ込められて、それが自らのナショナリズムを阻害することを恐れている、そういう部分もあろうかと思うのです。

幸い、もちろんアジアにおいても、戦後の70年代以後、経済成長と民主化という2つの大きなダイナミックスがありました。その結果として、この経済成長というものと政治的な民主化がそれぞれのアジアの国の対外関係、対外政策にどういう影響を及ぼすのか。またその結果として、アジアの地域秩序にどのような影響を及ぼすのかというのは非常に大きな問題であり、その問題も一言端的に言いますと、これはリード先生もペーパーで少し出されましたが、ある意味では最近政治学のはやり言葉で言うと、“デモクラティック・ピース”というのがアジアで成り立つのかどうかの問題なわけです。経済成長と政治的民主化が、それぞれの国でそれぞれのスピードで進んでいるわけですが、そのプロセスがそれぞれの国のナショナリズムにどのような変容をもたらしているのか、いないのか。その結果として地域政策、対外関係政策にどういう影響を与えているのかというのは大きな問題であると思います。

これも古典的な西欧、欧米の近代化論に基づきますと、民主化が進めば進むほど対外関係は平和的になる。つまり民主化が進むということは、政治体制が多元的になることを意味しますから、多元的になることで相互依存が進み、紛争は傾向的には低下するのだと予測できる。そのためにも経済発展は必要だという議論に一貫しているわけですが、リード先生のペーパーでも、半分楽観的だけれども、どうもナショナリズムというのがどこかで一つの障害となって、民主的平和あるいは民主的地域平和というものがアジアで本当に成り立つのかどうかというのは非常に紆余曲折が予想されるというイメージでありますが、私もそのように感じるわけです。

やはリアジアにおいて、それぞれの市民社会が依然として、こういう構造的な条件、歴史的な条件のために、ナショナリズムをどこかで引きずっているということが多分地域平和、民主的平和というものを時間がかかるものにするだろうということを感じるわけです。

それは、韓国の例を見ましても、経済成長と民主化の典型的な例だと思うのですが、その対外政策、ナショナリズムの影響というものが、端的に言うと、両義的なわけです。ある程度まではナショナリズムを和らげたり、変化させたり、多元的なものにする。しかし、その反面より堅牢なものにするという側面も見られます。例えば今、振り返ってみると、初めての文民政権と言われている金泳三政権の時の対日政策、対米政策であるとか、あるいは対北朝鮮の政策などよりナショナリズムに戻ろうとした部分が否定できないわけです。つまり、増大した経済力というものを一つの基盤にして、それで一生懸命大国の狭間になっている国際政治の構図から、自らの政治的な位相を高めようとして、経済力を基盤にして中国、ロシアカードを使い、それによって日本、アメリカから相対的なある程度の距離、自立を確保しようとし、それと並行して統一というものを吸収統一という形で北を追い詰めて何とか進めようとしたというのが、金泳三政権のかなり強いトレンドだったということであります。

それが対交的にもさまざまな問題をもたらしたりしたわけですが、今、そういう政策をめぐるさまざまな議論がずっとありまして、これから登場しようとする金大中政権はどちらかというとより市民社会指向で多元的な政策に戻ろうとしている。そういうことを今の段階までは言っているわけですが、よリナショナリズムを純化し、国家の強い権限というものを市民社会に委譲して、市民運動だとか、市民社会の部分と連携した、対内外政策を展開しようというふうに、今現在は少なくとも言葉では言っているわけですが、これまでの経過を見て、ある程度の方向転換を試みられていくだろうと思います。

詳しくお話しできませんでしたが、そのように考えますと、やはり民主化というものが自動的に、短期的にすぐ民主的地域平和というものを保障するとは言い切れません。韓国においてもこのように民主化の時代の政権においても、いろいろ紆余曲折が見られたりする時でありますが、しかしやはり長期的に考えると、そのトレンドによって明らかに韓国の社会というものも変わっていっているという気がするわけです。

経済のことはあまり詳しくわかりませんので、申し上げられませんが、今現在のIMF危機に対する反応を見ましても、まだ実際の被害が韓国の一人一人に降りかかってない段階なので余裕を持っているせいなのかもしれませんが、最初、97年の11月、12月の時点で予

 

 

 

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