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運用されています。米国の証券為替が、米国国内におけるヘッジファンドを不可能にしているのです。そのため、ヘッジファンドは世界各地へ進出し、投資を行っています。ヘッジファンドには、株式市場を投資対象としているものもあれば、債券を投資対象としているものもありますが、主として投資対象にしているのは通貨です。これが問題の元凶です。つまり、榊原氏の言われる「規制されざる資金運用」です。

ヘッジファンドの力は極めて強大で、良質なものと悪質なものとがあります。ヘッジファンドは、どのドルに対しても12倍の倍率効果があるものの、その借入率も12倍となります。例えば、クアンタムファンドは150億ドルの資金を保有していますので、1800億ドル資金借人が可能です。ヘッジファンドは、ポンド、メキシコペソ、米国ドルを引き下げることができます。ヘッジファンドが、いわゆる「規制されざる資金」なのです。年金基金も、ある意味では長期的なものです。ヘッジファンド自体はそれほど悪質なものではありませんが、極めて投機的であるため、なんらかの規制を設け監視する必要があります。1994年には、米国議会がヘッジファンドに対する調査を行っています。

 

●五百旗頭 真(神戸大学法学部教授)

パネリストの中で経済のわかる人は向こう側に4人全部行ってしまって、私は専門家じゃないけれども、ちょっと歴史の方からコメントしたいことがあります。

1929年の大恐慌の時代の経験ですが、そのとき日本は浜口内閣だったんですね。浜口首相、井上蔵相は大変まじめに第一次大戦バブルの不良債権等を処理しようと、そのために思い切ったうみを出しても、改革すべく緊縮財政を組むということをまじめにやったんです。勇気を持って断行した。そして同時に、グローバリゼーションと今言いますけれども、金本位制を回復する、金解禁によってグローバル経済と結び合わせることによって厳しいうみを出しながら、今後自分の足で大地を踏みしめて歩いていける日本経済に改めたいと考えたわけです。

ところが、非常に不幸な結果になった。それは、世界大恐慌という大変な不況の中で体質改善のための緊縮財政をやった場合に、当時の新聞のこれは漫画にもあったんですが、「ドクター浜口、手術は成功しますか」と言うと、浜ロドクターは確信を持って「必ず手術は成功する」と。「ところで、手術が終わるまで命はもつでしょうか」、「それはわからん」と。そういう事態に本当になって、日本経済は、「大学は出たけれど」4人か5人に1人しか就職できないし、農村では「娘売ります」という事態になった。浜口首相はテロに撃たれ、井上蔵相もテロで殺されることになったんです。そのことは一つの歴史の教訓だと思うんです。経済が大きな変調を迎えてるときにうみを出す、体質を改善するというIMF路線をいつでもやったらいいか、体質改善は長期的にすべきことでしょう、けれども、それを経済という体が肺炎を起こそうとしているときにやれば凍死してしまうかもしれないという問題です。

それからもう一つ、1929年の大不況は、その後70年代の経済危機でも現在でもある教訓を設定しています。それは歴史の教訓としてプラスに作用している面は少なくないと思うんです。70年代にG7サミットをつくったりして、国際協調の枠を強化することによって乗り越えたというのは、石油危機後の国際経済にとって大きなことだと思うんです。

現在もやはり考えるべきことは、なぜあのウォール街の株式大暴落が10年にわたる世界大恐慌になったかというと、最も端的なことは各国が自国産業を守らなきゃいけないというふうに行動的、けいれん的に対応したわけですね。こんな不況の中で外国の安い商品が入ってきて国内産業をつぶされたらやりきれない、山野さんの三洋電機のようにはみなが国際化してませんから。というので高関税、輸入税をみんな上げたんですね。それは、その国にとってはとりあえず合理的かもしれない。しかし、国際貿易全体がかじかんで世界中が凍傷、凍死するという事態になって10年の大恐慌になってしまったわけです。

ですから、個別には合理的であっても全体システムとしてやっちゃいけないという教訓があると思うんです。そういう点からいいますと、先ほど山野さんが紹介してくださったタイもマレーシアも輸入税を設定し始めてるというのは大変気になる点です。むしろ他面で同時にG7がIMFをたしなめてくれるのは今、つまリグローバリゼーションとかIMF体制とか言うけれども、実は西側を中心とするグローバルな対応も多様なんです。アメリカも一つではない。そういう中で比較的健全な動きがあって、ここにおられる皆さんもその点をサポートして、現場からもそう言ってらっしゃるというので案外悪くないんじゃないかというふうに素人ながら思っています。やはり必要なのは内需拡大であって、つまり高関税によって外国製品の輸入をとめるんじゃなくて、どんどん輸入をしていく。それは、とりあえず、あるいは国内の財政も国によっては一時的に赤字ということはあるかもしれない。しかし、ともかくこういうときには国際経済全体を温めるというのは緊急の必要であって、それをお互いにやっていく

 

 

 

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