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特にここで1点だけ強調したいのは、私は何回も過去アジアの各国を訪問いたしまして、幹部から、サポーティング・インダストリーの誘致をしきりに言われました。これは韓国、インドネシア、中国、それからタイ、マレーシア、すべて同じでございます。現地の基盤を強化するため、あるいは技術移転の受け皿という意味におきまして、このサポーティング・インダストリーの進出は極めて重要でございます。それで、日本の企業はこれに答えまして、特に中堅、中小の企業が数多く進出いたしました。これが私は、現地がハイテク型の商品の移管を受けても、それをこなすことができるようになってきた大きな理由であると考えておるわけでございます。

しかしながら、今回通貨危機の発生で、サポーティング・インダストリーが非常に苦境に立たされています。これは日本の国内においても同じことでございますが、皆様方、海外に展開しておる企業についての理解が非常に重要でございます。今日も朝のニュースでは、今度のG7でこういったサポーティング・インダストリーに対する特別の支援をするという話が出るようでございます。これは私が何度も関経連を通しまして経団連の方にお願いしてまいりましたことの一つが実現したのではなかろうかということで、大変喜んでいる次第でございます。

次に重要なのは、今度は日本の国内に対する対応でございます。海外展開がどんどん進んでまいります。しかもマーケットを完全にオープンして、そういった国々の商品を受け入れなさいというアジア諸国、あるいは先進国の期待を受けるといたしますと、日本の産業はしからばどうするのかと、いわゆる空洞化に対する対応が非常に懸念されるわけでございます。空洞化の現象というのは、試算が非常に困難でございますが、95年度の試算によりますと、当時既に11万人のレイオフが発生をしております。しかし、これに対しては、長期にわたって、しかも非常に多くの忍耐強い対応が必要であります。申すまでもなく、これは新産業の創出とベンチャー企業の育成、こういったことに尽きると思います。日本の政府も、その点については大変理解が進んでおりまして、1995年の11月には科学技術基本法が制定されました。また、96年の7月には科学技術基本計画が策定されまして、日本は科学技術創造立国を目指すということになりました。タイトな予算の中で、日本の政府はまれに見る、10年間に17兆円の研究開発費を新たに増額するという決議がされております。これは今年も順調に遂行されておるというふうに考えております。

私は、日本の将来は、まさに新産業を創出する、新しい技術で技術創造立国を目指すこと以外にないのではなかろうかと、これがアジアのみならず、世界人類の持続的な発展に貢献していくことになるのではないかと考える次第でございます。

ひとつ具体的な例を申し上げて、私のお話の終わりにしたいと思うわけでございますが、まず、オーバーヘッドをちょっとよろしくお願いします。

これは既にごらんの方が多いかもしれませんが、「Spring-8」と称しまして、大型の加速器でございます。また、シンクロトロン・オービタル・ラディエーションといいまして、非常に強力なエックス線の発生する装置でございます。丸いUFOのような建物でございます。これは円周が1.4キロメーターございます非常に大型の建物で、この中にたくさんの実験装置が組み込まれるようになりまして、これは世界一の規模を誇るものでございます。97年の10月から稼働を始めまして、この装置が稼働いたしますと、次々と新しい研究開発が実行される予定でございます。ごく簡単にその内容を御説明申し上げますと、これは新しい研究装置、しかも非常に汎用性のあるものでございまして、新しい物質の創造、新半導体や新素材をつくっていくことはもちろん、新しい生命分野の種々の現象の解明につながります。遺伝子とかタンパク質といったものの構造をたちどころに解析できます。また加えて、この装置は新しい医療の分野に有効であることも実証されてまいりました。エックス線のCTを使って人間の体内を瞬時に診断をする装置がございますが、この装置はエックス線の透過度、エックス線がどれだけ通過したか、どれだけ減少したかということでイメージングをやるわけでございますが、その振幅、強度だけではなく位相差を使うことによってディフラクションイメージングということが可能になりました。そういたしますと、人体の中で極めて発見が困難であった肺や内臓などの悪性腫瘍を極めて初期において発見することができる。これはいわゆる悪性のがんの早期発見に画期的なものでございます。また、この加速器を使い、粒子線加速装置によりまして、がんの病巣だけを効果的にたたくということも実証されつつあります。こういったものができてまいりますと、新たな分野を開いていくということは確実でございます。

また、この装置の重要な点は、世界に開かれた装置でございまして、何人も自由にこの装置を使うことができる。アジアのみならず全世界の国々からたくさんの研究者が訪問をして、研究が具体的に始まろうとしております。

 

 

 

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