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た、二、三枚でございますので、若干会場を暗くすることをお許しをいただきたいと思います。

では、簡単に日本の企業が海外にどういうふうに展開をしていったかということ、これは歴史的な背景ということで重要ではなかろうかと思いまして、当社の例を若干申し上げたいと思います。

まず第1に、当社は名前が示すとおり、大変積極的に海外に進出いたしました。これはそれなりの理由がございましたが、まず1961年に香港でトランジスタラジオの生産を始めまして、現在では海外に77の製造拠点と、37の販売拠点を持っております。ほとんど世界各国に製造拠点並びに販売拠点をつくっておりますが、このうちの72%がアジアにございまして、従業員が現在約3万900人おります。1997年3月までの連結売り上げを御参考までに申しますと、1ドル120円で換算して、144億5,971万ドルでございまして、このうち海外売上比率が約44%、しかもその海外売上高の約44%がアジアに集中しております。これは大体典型的な日本の電機産業の一例と考えていただいて問題なかろうかと思います。

まず、私は短期的な問題ということで、グローバリゼーションと経済圏のブロック化の問題について、製造業の立場から申し上げたいと思います。

先ほども申しましたように、電機産業というものは、戦後海外、特にアジア地域に対しては非常に早くから進出を開始いたしました。これが繊維産業と並びまして日本の貿易発展の礎を築いたと思っております。それから、若干時間を置きまして輸送機械、すなわち自動車産業が進出をしたということでございます。

その当時、先進諸国と違い、アジアの途上国におきましては日本からの完成品の輸出が不可能でした。したがいまして、現地のマーケットを確保するためには、工場を建設することからスタートしなければなりませんでした。その結果、各国では現地に大きな雇用が創出されますと同時に、外貨を大幅に獲得することができ、現地に貢献することができました。その後、現地の工場は順調に生産規模が拡大するとともに品質が向上して、さらに商品陣が強化されてコスト競争力をつけることにより、今や近隣諸国への貿易、全世界への再輸出拠点ということになりました。これは先ほどのパカセムさんの御紹介のとおり、アジアの奇跡と言われるような発展でございました。

加えて、東アジア経済が高い成長を遂げてまいりましたのは、貿易の自由化であるとか、外貨規制を緩和したとか、為替レートが適正化されておったわけで、固定相場制によって大変大きな恩恵をこうむりました。こういったことは、いずれも輸出産業の振興が中心でございましたが、95年になりまして、現地産業に一つの転機が来たのではなかろうかと考えております。

私は、1988年から約5年間、副社長といたしまして、海外経営の責任者として各地を飛び回る機会がございましたときに非常に痛感したわけでございますが、輸入された技術を巧みに利用して、しかも新しい商品を新しいマーケットにどんどん輸出するという、こういったパターンが極めて効率よく拡大していったわけでございます。ところが、96年からはさすがの成長率も鈍化の兆しが出てまいりました。これにはいろいろの理由がございます。ここではそれについてのお話を避けますが、そこにまいりまして非常に無理な外貨の借り入れが途上国にあったということが、大きな指摘をすべき点ではなかろうかと思います。

そこに加えて、97年7月、タイバーツを中心にしまして、各国の通貨がドミノ倒しのように大幅に下落してまいりました。これはもう御承知のとおりでございます。97年7月といいますのは、要するに香港が中国に返還されたときでございます。非常に画期的な一致ではなかろうかと思うわけでございます。これが大きな意味を持つかどうかは別といたしまして、現在も非常に不安定な状態が続いておるということでございまして、最も関心の高いのは、98年には切り下げが行われないということになっておりますが、香港・中国ヘの波及の可能性でございます。中国のペッグ制がどうなるか、香港の通貨がどうなるかということに対する関心は最も重要な点でございます。

こういう場合のグローバリゼーションはブロック化ということに非常に大きな特徴が出てまいりました。要するにNAFTA、それからEU、AFTAと、こう言われるような世界の経済圏のトライアングルの形成というものが非常に顕在化してまいりました。これが世界経済の成長を加速させてまいりましたが、現在は逆にアジアの通貨危機が世界危機に多大な影響を及ぼしまして、まさにブロック化した経済がリンクして動いているということを如実に示す結果となっております。すなわち、享受すべき恩恵と対処すべきリスク、双方を伴うグローバリゼーションがこれまでのビジネスのやり方を新たに認識する必要を痛感させるわけでございます。

アジアの通貨金融危機へのIMFの対応は、従来のような融資によるマクロ経済支援に加えまして、金融機関の清算など構造改革にまで踏み込んだものとなって

 

 

 

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