るという、一定の役割がlMFにはあります。IMFを前面に押し出して、政策を進めるといった状況は、現在のアジア緊急救済総合対策の場合によくあてはまります。しかし、一定の正当性は認められているIMFにも、いかなる病気にも「緊縮経済」という薬を処方する医師だという難点があるように思われます。高金利と政府予算の黒字で景気にてこ入れすることで、貯蓄率を高め、成長率を抑え、輸入を削減して貿易収支の均衡化を図る、これが典型的な処方箋です。その他には、銀行の即時閉鎖によって、IMFが資本の妥当額の引き上げのみを求める、といった処方があります。以上のような処方箋が、インドネシアの倒産パニックと、韓国、タイ、そしてインドネシアの3ヶ国で起きた金融危機による収縮景気に対して用いられました。その結果、3ケ国で債権パニック、銀行の利率低下、国家主権の格下げが引き起こり、一国で債務国化が進みました。
アジア諸国やヨーロッパ諸国の多くの経済評論家は、IMFの政策は貯蓄の低いラテンアメリカには効果を発するが、貯蓄の極めて高いアジア諸国にはふさわしくない、と述べています。また、「緊縮経済」という同一の薬を一度に多くの国々に処方するのは、的確な治療とはいえません。世界需要の総額が低下し、そのために世界の低成長という問題をさらに悪化させることは明らかです。ウォール街の大手銀行経営者たちは、IMFは多量の緊縮経済対策を処方し過ぎるのではないかと、今や声高に疑問を投げかけ始めています。その中の一人、モルガン・スタンレー・アセット・マネージメント社会長のバートン・ヴィックス氏は、「IMFはむしろアジア諸国の健全な成長を助長するプログラムを実施すべきだ」と述べています。世界銀行の副総裁さえも、IMFを公式かつ公然と批判しています。ジョセフ・スティグリッツ氏も、「今日のアジアの信頼にかげりが生じている。こうした国々を厳しい不況に追い込んではならない。事実、米国のすべてのエコノミストが、不況時における均衡予算という原則的な考えに反対している。他の国々に助言しようとする時に、このような考えを無視してよいものだろうか」と公言しています。幸い、先日IMFが、タイに対する総額数百億ドルの緊急救済総合対策として実施した融資に対する条件が、緊縮経済として行き過ぎたものであったことを認めました。この結果、IMFによるタイヘの融資条件が、最低2%の予算の赤字にまで緩和されました。 つい最近、ワシントン時間で先週の2月4日、米国のローレンス・サマーズ財務長官が、IMFのこれまでの業務方針の変更を求める議会の批判に応える答弁をしました。サマーズ財務長官は、IMFはより良好な統治のもとに置かれる必要がある、IMFが米国の納税者と投資家の信頼を一手に得たいのであれば、業務の透明度を高め、意思決定に対する責任を強めるべきだ、と述べました。しかし、サマーズ財務長官はなおも、180億ドルの新たなるIMF資金の承認を議会に要求しました。
IMFの役割は、現在のグローバリゼーションの過程において、修正され調整されていくことでしょう。中国とインドが、再び資本勘定交換制に移行する計画を構想する中、アジアの金融危機に対するIMFの処方箋は鋭い監視の下にあります。すなわち、ルピアと元の交換性の早期化に対する監視です。したがって、IMFによる公式の緊急救済総合対策は、アジアにおいて、より斬新かつ市場に基づいた総合対策と何らかの地域基地によって、補強される必要があります。
今日のアジアにおいて、アジア基金を含む地域機関、いわゆる「金融協カゾーン」を設置し、さらにはASEAN諸国における潜在的な経済危機と金融危機の規模を見積もる「ピア・サーベイランス」と呼ばれるASEAN提言を確立するため、「金融協カゾーン」と「ピア・サーベイランス」が共有化される可能性が、極めて現実味を帯びてきています。つい2、3週間前、マレーシアの首相が、域内貿易へ向けて、米国ドルを地域通貨へ切り換えることを目的とした「東南アジア・ノードルゾーン」を提案しました。また、東京三菱銀行が、ルピアの安定化を目的とする150億ドルの為替安定化基金の設置という、最新の斬新的な構想を、インドネシアと日本の当局に提案しています。これらの提案は、極めて興味深いことです。地域機関という考えが、実践されつつある例といえます。これらの提案が、実際に具体化されることを願ってやみません。
最後に、ドルと円の不均衡について申し上げたいと思います。これが実は、本日私が一番触れたかった議題です。誰もこの問題、すなわち、交換レートを操作するということは間違ってる、ということを指摘しません。共同研究を進めている日米の学者は、日本の貿易黒字と米国の貿易赤字を削減するために、為替レートを操作するのは間違いであることに、日米は今すぐ気づくべきだ、との警告を発しています。日本では、円高になると、経営者は国際競争の損失のみを懸念します。円高になるという期待が、日本の金利をゼロの水準に維持します。
再び今年、円高傾向に転じるという気運が高まっています。日本の貿易黒字と米国の貿易赤字を背景として、円高による円の利上げとドルの利下げによる反応