マサチューセッツ工科大学のレスター・サロー教授は、「資本主義の未来」と題する著書の中で、的確に指摘されています。教授は、経済破綻は資本主義に本質的に内在するものと述べています。すなわち「シュンペーターの市場の失敗」です。大型の経済破綻としては、1929年に米国で起きた大暴落、さらにより最近の1990年代には、株式が3分の2に下落し、資産価格が70%に落ち込んだ日本におけるバブル経済の崩壊があります。レスター・サロー教授は、次はアジアの番だと断言しています。
周知の通り、1929年の大暴落が1930年代に大恐慌となった原因は、フーヴァー大統領が混乱する事態を掌握できなかったことにあります。ニューディール政策を打ち出すには、ルーズベルトの登場が必要でした。米国には、日本の橋本龍太郎現首相をフーヴァー大統領になぞらえる向きがあります。今の日本にも、ルーズベルト大統領が必要かもしれません。現代世界において、私の母国を含め、アジアの多くの政治体制が、バブル経済後の混乱を収拾する効果的な力が不足していることを、自ら暴露しています。今後6ヶ月の内に、アジアでは、企業の債務不履行や倒産の件数が倍増する可能性さえあります。今のアジアに投入の必要が見込まれる外国融資の実質総額や、日本がこの地域で役割を果たす上で足かせとなっている、日本経済の欠陥に対する不透明感が問題となっています。
一方、韓国、インドネシア、タイの3ケ国から成る、いわゆるKITにおいては、現在本格的な措置が講じられつつあります。かつての議論は、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンから成るラテンアメリカのMBAが対象でしたが、近年では、アジアのKITが議論の対象となっています。IMFの緊急救済総合対策と融資条件に対する反応は、3ケ国それぞれ異なります。タイは、金融会社56社の閉鎖を含む大胆な措置を講じ、政府が銀行4行を買収しました。韓国は、強気の改革を進めています。IMFによる総額600億ドルの緊急救済対策に加え、数ケ月前、韓国の交渉団が国際債権銀行各社に対し、韓国への240億ドルの短期融資を認めさせたことで、韓国経済は幾分自信を取り戻したようです。我が友好国インドネシアは、一回目のIMF協定に対しては不満を示しましたが、スハルト大統領が厳しい融資条件に個人的に関与し、二回目の救済対策により、信頼性が高まりました。しかし、スハルト大統領はここ最近、ルピアを強化し、低迷するインドネシア経済に自信を取り戻させる手段として、通貨管理機関を設置する問題に取り組んでいます。この問題は現在激しい議論の対象となっており、経済的な問題というより政治的な問題へと発展しつつあります。
これら3ケ国の現状を把握した上で、1998年の全面的な景気後退は、通貨下落が現在最も激しいインドネシア、タイ、そして韓国で発生すると予測されます。今のところ急激な通貨下落が起きていない中国、台湾、シンガポール、そしてインドは、低い安定的経済成長にとどまる模様です。通貨が完全な交換性を持っていない国々における損失が少なく、グローバリゼーションの最前線に位置する国々が多大な損失を被っているというのは、何とも皮肉なことです。
要するに、米国やWTなどの演出によって、これまでフルスピードで進んできた世界各地の市場開放が、減速しつつあるというのが現状です。アジアは、グローバリゼーションから一時撤退することを考えるべきではないでしょうか。
二点目としてですが、アジアにおけるIMFとその緊急救済機能が果たす役割は、「地域機関」と「市場」に基づいた緊急救済プログラムによって補強される必要があります。すでに述べたように、アジアにおける金融破綻の大きな原因の一つは、急速に移動する巨大な資本の流入と流出です。現在IMFには、新たな世界市場で起きている資本の流出を食い止めるだけの十分な財源がありません。確かにIMFの機能は極めて重要であり必要とされています。しかし、現在のIMFの役割を果たすような機関を構想するとすれば、より多くの財源と人的資源が投入できるよう、現代における役割を組み換える必要があります。私にはIMFに多くの知人がいます。知人たちによると、IMFは疲労困ぱいしており、21世紀におけるIMFの役割を求めて、暗中模索の状態にあるそうです。
すでにタイ、インドネシア、そして韓国に向けて実施されている1,000ドルを優に超える、IMFの国際的な総合救済対策ですが、当初は、市場の信頼を回復し資本の流出を防ぐ効果をほとんど上げませんでした。韓国、インドネシア、タイヘの三つ巴の緊急救済総合対策は、IMFにかつてない程の負担を強いり、IMFの資金流動性をも低下させました。さらに負担が重なれば、IMFは孤立化し、現在の流動性の維持も危ういものとなります。IMFの財源は、今や極度な緊縮状態にあります。これは、中国やインドなど、将来の危機に対応する上での、IMFの役割と機能を鈍らせるものです。IMFの財源が底をついたらどうなるか、そのような状況は何としても回避しなければなりません。
実施の必要性がある政策に対して、責任を負担すべき立場にある者に国際流動資金を提供し、またそうした政策を実施する政府に、政治的な保護措置を提供す