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放棄することによって戦争という手段から外交という方法に変換する。この外交の方法というものはもちろん中国の朝貢システムの方法に学んでいます。ですから国内統一と外交が同じ方法で行われるのです。国内統一と言いますのは、当時は約300の独立国が日本の中にあったと考えていいと思うのです。ですからほぼ経済的にも文化的にも独立していた300のグループがいかに戦争を起こさないでいられるかということを朝貢システムと非常によく似たシステムで、これは日本では参勤交代と言っていますが、行った。それと全く同じことを外交、つまり琉球や朝鮮半島、それとオランダ東インド会社に向かっても行った。それが一つあります。

それからもう一つは文明国を目指すということですから教育です。ひとつは朝鮮半島に入った時の結果として活字を大量にソウルから持ってきた。これはもちろん朝鮮の側から言うと奪ってきたということなわけです。そしてそれによって出版が始まるわけですが、日本の一つの特徴は出版が始まった時にそれを宮廷の中や幕府の中で独占しないで、非常に早く民間の業者に流れていきます。そして活字によって出版業というものが起こりました。これはすぐに活字から版木、つまり板によって印刷するという方法に変わりますが、変わったのは読書人口が増えたから変わったわけでそれは省きますけれども、そのようにして教育や出版というものが始まりました。制度的な教育は幕府や藩が行っただけですが、制度以外の教育の現場というものが大量に立ちあらわれてきた。つまり庶民が自分たちでどんどん学校をつくってしまうという現象があらわれてきたために、江戸時代というのは市場経済の発達と文化ということが両方同時に起こるようになったわけです。

その時に、先ほど江戸時代と東南アジアとの関係を言いましたが、一つ例を挙げますと縞の着物、縞というのはストライプの意味ですが縞の着物というものがありまして、これは江戸時代では浮世絵をご覧になるとわかるように大量に生産されて多くの人が着ていました。ごく普通の日常的な着物の一つですが、この「縞」という文字は江戸時代の表記ではアイランドの「島」と書きます。日本人から見ると大陸、東南アジアも含めて島として認識していたのです。ですから「島物」という言葉がありまして、茶の湯の陶器の世界でも島物という言葉があり、また着物の世界でも島物という言葉があって、しかもその島という言葉の中にはインドの各地の名称が同時につけられていました。例えば「サントメ」、これはマドラスのことですが、そいうインドの地名とともに縞、ストライプというものが市場の中に現れてきたわけです。

そのほかたくさんこのような例がありまして、東南アジアの物や文化や技術を運んできたのが、江戸時代になってからはオランダ東インド会社だったものですから、同じ船の中にヨーロッパの物、書籍やそれからレンズのような物ですが、そのような物もたくさん運ばれてくるわけです。もちろん世界地図なども大量に運ばれてきます。世界地図は中国の世界地図からヨーロッパ各地の世界地図までたくさんのものが江戸時代にあったわけで、そうしますと物の見方というものが変わってきます。例えばスィフトと同じような物語がこの江戸時代の中にもあらわれてきます。つまり異国を借りて自分の姿を見る、自分の国についての批判的な見方、こういうような見方というのは世界全体を見渡していないとできないわけです。相対的な見方というものが存在しないとできないわけですけれども、そのような物語も独自にあらわれてきます。そのような江戸時代の文化そのものがグローバライゼーションの結果起こったわけですが、しかし先ほど言いましたようにグローバライゼーションというのは危機でもあるわけですから、そういう危機を常にはらんだ上での時代であったというふうに言うことができると思います。

それからもう一つ、先ほど川勝さんがリサイクルの話をなさいました。これも先ほどの流れから言いますと、グローバライゼーションの結果、国内での市場経済というものが非常に活発になって、大量の職人たちによる生産が行われ、そこでの再利用ということが行われていたわけです。その一つの特徴は私たちにとって無駄であると思うものが必ず再利用のポイントに使われるということであります。例を2つだけ挙げますと、一つは灰でもう一つは排泄物です。両方とも要らないものですけれども、この灰と排泄物というのは日本の江戸時代のリサイクル社会にとって非常に重要なもので、この2つがあって初めて全体が循環するようにできている社会なのです。そのような社会というものもグローバリゼーションの結呆起こってきたのですが、しかしそれはどこかを見習ったわけではないのです。

そのほかには例えば今朝のニュースで、彦根の代官のかなりの人数の人たちが町人であったという資料が見つかったということでした。非常に特殊な例であるというような報道でしたが、私はそうは思いません。恐らくさまざまなところでそういう現象が起こっていただろうと思います。つまり江戸時代の人々のコミュ

 

 

 

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