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紀を前に直面している事柄ではないかと考えます。日本が文化から文明になれるか、そういう瀬戸際に立っている、その可能性、文明になれる可能性は歴史的に見て十分に整っていると思います。そしてそれは恐らく地球社会のためになるであろうというふうに確信しております。ありがとうございました。

 

●座長:青木

どうもありがとうございました。それでは、引き続きましてコメントに移りたいと思います。

では最初に、アシス・ナンディさんからコメントをお願いいたします。

 

●アシス・ナンディ(インド、デリー社会開発研究所主席研究員)

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私はこの報告が、アジアの文化や一つの教訓が理解でき、グローバリゼーションの開始が自覚を伴うべきものであることを理解する一助になるものであることを、最初のコメントとして申し上げたいと思います。

アジアという概念は、ヨーロッパの産物です。この産物は、毒入りの産物とも言えるかも知れません。しかし、毒入りにも関わらず、アジアはヨーロッパの産物なのです。今からちょうど500年前、1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインドの西海岸に到着しました。ヨーロッパは、これをアジアの発見だと喜びました。私たちは発見されたのです。私はガマらが到達した都市の研究を行っていますが、素晴らしい都市です。もし時間があれば、この都市のお話もしたいと思います。

ヴァスコ・ダ・ガマのオリエント、アジアの発見とその結果は、今も私たちの生活に影響を及ぼしています。ガマ本人が植民地化を押し進めたかどうかはともかく、この発見が結果的に、植民地化の時代を到来させたからです。そして、アジアはある意味で、この植民地化と共に現在の旅路を歩み始めたのです。

私は、川勝さんのアジアの定義を補足する意味で、シェレド・カラフティアン氏の定義を提起したいと思います。アジアは、今から500年前、自己への文化的な恐怖心とでも言うべきプロセスが始まった文化地域である、とする定義です。自己への恐怖心というのは、植民地化を免れた国々も含め、アジアの広範な層が、ヨーロッパ人に支配されたら自分たちはどうなるのか、という恐怖心を初めて持ち始めたからです。日本の学者によれば、日本が直接植民地にされたことは一度もなかったことが理解できます。しかし、古来の日本の資料に目を通せば、中国とインドという二つの巨大文明が、既に西洋の支配下にあるという意識を日本人が持っていたことがわかります。日本人は、自分たちがどうなるかという懸念と恐怖心を抱きました。日本の近代化は、この恐怖心に対する反応でもありました。私はこうした言い方がどこまで正しいか、あるいはどこまで間違っているのかよく解りませんので、皆様にお答えいただきたいと思います。私の考えでは、アジアにおけるこの自己への恐怖心は、かなり早い時期に始まったと思います。これが次第に、近代化という目標とは無関係の、自己解放の領域を自己の中に作りたいと願う、自己恐怖症へと変容していきました。私は、近代化と西洋化の違いをさほど区別するつもりはありません。西洋化は近代化の進行した形に過ぎません。水痘の進行した形が天然痘です。私の申し上げたいことは、これまでの二つの報告でも指摘され、リードさんが明らかにされたように、変化をもたらした原因は、「中流階級」とも呼べる、裕福で都市化した流動人口の形成だということです。人々は伝統的な工芸の仕事から離れ、人口の30%が都市に暮らしています。この数年間に東南アジアで登場した西洋を模倣していると思われる特徴は、いずれも完全に西洋的なものではなく、むしろ微妙で近代的なものです。

私たちは今回の会議のために、あらかじめ、アジア地域から多くの国々を選んだことを、謙虚に申し上げたいと思います。悲しいことに、昨今のアジアで、繁栄と映る多くのものの背後には、私たちが過去から受け継いできた伝統的な宗教の祭日ではなく、西洋の近代化から直接生み出されたイデオロギーの名のもとに、2億人近くもの人間が人為的な暴力で命を失った、今世紀の歴史があることを見逃すことはできません。ナチズムの犠牲となった者は、無惨な最期を遂げ、19世紀の生物学や優生学の興隆の反面には、グダンスクやスターリンの犠牲となった者達がいたのです。

科学の歴史が台頭する中、リードさんが話題にしておられる国際主義も必要性が高まっています。普遍的な国際主義として考えたいのですが、明らかに19世紀ヨーロッパの産物です。それゆえ、19世紀のヨーロッパは様々な面で、近代化や科学の発展にとって、極めて有益なモデルを提供してくれたかも知れません。しかし、同時に、それは毒入りの産物をもアジアに授ける結果となったのです。そこから生まれたのは、アジアという概念ではなく、自己嫌悪に陥り、19世紀のヨーロッパにより近づこうとして、自己の再編と設計を始めた広大な地域です。

ヨーロッパはより懐疑的でした。しかし、アジア社

 

 

 

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