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うことはまたこれから議論をしていただきたいと思います。

では次に川勝先生よろしくお願いいたします。

 

●川勝平太(早稲田大学政治経済学部教授)

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リードさんからマイノリティーグループを大切にするような開かれた社会をつくらなければならないという大事なメッセージをいただきました。

さて、基調講演のギンゴナ前フィリピン司法長官が“more powers to Asian nations”と言われましたが、このメッセージに私は共感しております。公正で経済力があって、そして文化の高いアジアをつくっていこうではないか、このメッセージを私なりに真剣に受け止めました。アジアは第2の基調報告である山崎先生の話にありましたように、これからつくっていくものである。

普通我々はアジアという言葉を使いますけれども、これはヨーロッパの影としてのアジアというものであります。文明史家の伊東俊太郎先生によればアッシリア語でアジアとは日の上るところ、ヨーロッパとは日の沈むところという、それぐらいの意味しかなかった。これはオリエントとオクシデントについても同じことであります。後に19世紀にオリエンタリズムというものができますけれども、近代西洋を飾る影としてオリエントあるいはアジアが想定された。アジアやオリエントには積極的な意味がない、だからアジアというものがあると思うなということです。これからアジアをつくっていくというメッセージです。しかもアジアは閉じられているのではなくて、アジア太平洋共同体の一部として日本もこれから重要な役割を果たしていかなければならないということです。

それから近代化というのはウエスタナイゼーションではないという山崎先生のメッセージでありますが、これにも全く同感であります。ここではグローバリゼーションという言葉を使っておりますけれども、グローバリゼーションというのは西洋化よりも広い概念である、西洋化はグローバリゼーションの1つの型でしかない。言いかえますとアメリカナイゼーションもまたグローバリゼーションの1つの型でしかない。これにも賛成でありまして、これらを前提にした上で若干時間をちょうだいしてご清聴をお願い申し上げたいと思います。

第1セッションで3つのタイムスケールが示されました。50年、150年、500年です。これを本セッションのグローバリゼーション、アジア、文化という3つのキーターム、キーコンセプトからどのように読みかえるかというところから入っていきたいと思います。

50年は冷戦の時代ですが、社会主義ブロックが自己崩壊し自由主義圏が勝ったというふうに通常は総括される。端的に言えばアメリカが勝ったと、そしてアメリカニズムが世界に及ぶということになったかと思ったら、そうはならない。資本主義もアメリカ資本主義とヨーロピアン資本主義というのがあります。ヨーロッパもフランス資本主義とジャーマンタイプの資本主義とイギリスのいわゆるジェントルマンのキャピタリズムと言われる独自の資本主義の型があります。それらとは別の産業資本主義というふうに言われる日本資本主義もあります。つまり資本主義にもそれぞれ歴史、慣習、文化が背後にあって、それぞれ制度が違うということも最近わかってきました。それだけではなくてアジア的価値というようなことが、ヨーロッパとは違うものとして出てきたわけです。アジアもよく見ると、アジアは一つではなくて「アジアは一つ一つである」ということがわかります。こうして、50年の帰結というのは何かというと、文化の登場です。政治や経済のシステムに対して文化が表面に出てきた。それが1つの学ぶべきレッスンではなかろうかと思います。

それから次にそれを150年ないし200年を、文化的観点からどういうふうに言えるかというと、ちょうど150年ないし200年ぐらい前にヨーロッパないし西洋とアジアとの文化の力関係がヨーロッパ側に優位に変わった、150年前、200年前にヨーロッパにおいてアジア蔑視というものが明確な形で出てくるわけです。

さらに500年という長いスパンをとりますと、それはちょうど500年ほど前に海洋アジアともいうべきアジアが人類史に登場し、その海洋アジアにヨーロッパ並びに日本が強く憧れを持ちました。今日グローバリゼーションの一翼を担っている日本あるいはヨーロッパ、アメリカというところが憧れを持った海洋アジアが登場した。これはアンソニー・リード氏の“SOUTHEAST ASIA IN THE AGE OF COMIMERCE”という本が明らかにしたことであります。通常東南アジアはヨーロッパの拡大が19世紀に及んで、それから近代化や西洋化というものに乗り出したというふうに言われているのですが、実はそういうモダナイゼーションあるいは西洋化というものの原型が海洋アジアの500年前にあったということ、そこから出発するべきだということであります。

グローバリゼーションはいつ始まったのか、500年ほど前に始まっています。ちょうど500年前を取るの

 

 

 

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