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ティーに対する大虐殺について、今回の経済恐慌をきっかけに考える必要があります。

私の手元にある極めて大まかな数年から、1930年頃から1970年頃にかけてヨーロッパ各国で進んだ都市化などの経済発展と、東南アジアの過去20年間の進歩について、おおよその比較をすることができます。もちろん、ヨーロッパも極めて多様であり、アジアも極めて多様ですが、都市に生活し、高度な教育を受け、農業ではなく第二次産業や第三次産業に従事する者が人口の300%以上を占めている現在のアジアでの経済危機は、以前に起こった危機当時の東南アジア社会というよりは、むしろ1930年代のヨーロッパにはるかに似ていると断言して良いでしょう。このヨーロッパとの比較によってわかることは、今回の危機は最も困難を極める時代となる可能性があるということです。暴力事件が最も多い都市に、人口が集中する時代です。一旦野放しとなり噴出した暴力は規制するのが困難です。自分たちの形成する共同体に属さない特定の集団が問題発生の原因であるとする、メシア思想的な解決方法は、この暴力を助長するだけです。

現在のような経済危機の時期に指摘されることは、やはり国際システムに対する自信の喪失です。自信の喪失が、極めて急速かつ広範囲にわたって進行しています。都市の失業者だけでなく多くの知識人までが、万人が恩恵を享受しているうちは確実なものとみられていたシステム、そして今回のような経済危機の時でも十分に機能するだろうと信じられていたシステムがついに崩壊したと考えて、国際システムを全面的に放棄する傾向があります。したがって、アジア諸国が、責任の所在を明らかにするため、現在よりも明確なシステムを構築する確固たる方法を模索しているのは当然のことでしょう。

現在インドネシアにおいて既に顕在化し、経済危機を体験しているその他のアジア社会でも高まっている、新たな動きに私たちは注目すべきだと思います。金融だけでなく、情報や交通の移動も急速となり、ますます統合化の進む国際社会も同様です。アジア諸国を取り巻く社会がいかに行動し、どのような発言をするかが問われています。また、一方、このような問題に対処するために、国際社会がいかなる解決策を提示するかが問われています。

最も愚かな解決方法は、学校で先生が生徒に命令するように、インドネシアをひざまずかせる方法でしょう。現在の勢力が世界の主流となる機運が高まっています。注意力と鋭敬な感覚さらには構想力を駆使し、新たな機敏な解決策への模索が行われています。しかしこのような解決策は、既に様々な威嚇や弱体化を受けてきたインドネシアにとっては、民主化への道を阻むさらに大きな障害となるでしょう。

1930年代のヨーロッパとの比較に話を戻しますが、次第に安定した形に移行する民主主義的秩序への道は、ヨーロッパでは大変な苦痛を伴うものでした。最悪の脅威が1930年代にドイツ、オーストリア、イタリアなど各地で既に出現していたといえるでしょう。脅成の正体を解明することを最優先とすべきところ、ヨーロッパでは、こうした脅威が真剣なテーマとして取り上げられず、対策が遅れ、発生を防止するためのいかなる経済的処置も行われませんでした。現在の東南アジアには既にその兆しが見受けられます。東南アジアの危機は、いずれも、かつてのヨーロッパの脅威に比して、それほど驚くべきものではない、技術と想像力さえあれば調整できる、という見方もできるかもしれません。しかし、決してこうした脅威を過小評価してはなりません。

さて、私は4つの項目を挙げ、話を進めて参りました。まず第一に、経済的ナショナリズムです。資金の国外流出による融資の不履行を防ぐとともに、より自給自足的な経済体制に戻って、多大の苦痛を伴う現在の国際経済から、なんらかの形で抜け出たいという動きが既に表面化しています。もちろんこうした動きは、大規模な誘導政策として恐慌最盛期にとられたものですが、こうした対策を講ずることは極めて困難です。今後、こうした経済の建て直しを求める急進派と呼ばれる層が増大するでしょう。しかし、急進派により損なわれる経済倫理は、深刻かつ致命的です。このことはヨーロッパの歴史的事例が示すとおりです。

第二に華僑の問題です。ある意味で、現在最も恐ろしく最も表面化しやすい問題は、起業家精神に長け、比較的裕福な共同体をなしている、東南アジアの華僑約2,500万人に対して、責任転嫁などの反応が発生することです。華僑は、1920年代と1930年代当時の中央ヨーロッパにおけるユダヤ人に、極めて類似した立場にあります。

私の発言は、白石さんと共著で執筆した著書の内容をやや踏襲した形のものですが、華僑とユダヤ人を比較するために、現在の状況下でどこが類似しており、どこが異なっているかを検討してみましょう。私たちがこの著書を執筆したのは、現在の危機が発生する前でした。ところが危機は突如、猛威を振るうものとなりました。最も大きな違いは、自らを偉大な存在だと華僑が考えているという点ではなく、ユダヤ人がファシストによって、ユダヤ人排斥運動に利用されたのと

 

 

 

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