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セッション2

 

グローバリゼーションとアジア、文化の変容

 

座長 青木 保(東京大学先端科学技術研究センター教授)

報告 アンソニー・リード(オーストラリア、オーストラリア国立大学アジア太平洋研究所東南アジア史教授)

報告 川勝 平太(早稲田大学政治経済学部教授)

コメント アシス・ナンディ (インド、デリー社会開発研究所主席研究員)

コメント 田中 優子(法政大学第一教養部教授)

 

●座長:青木 保(東京大学先端科学技術研究センター教授)

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アジアというと今経済の問題が一番深刻である、或いは一番大きな話題であるということで経済の問題にあらゆる議論が集中してしまう感じがいたします。それはそれでもちろん重要でありますが、我々は今の経済危機も大きなアジアの歴史過程の一こまあるいは文化の発達の中の一局面というふうにとらえたいと思います。それでこのセッションでようやく文化についてお話ができますことを心からうれしく思います(笑)。

それから、このシンポジウムは「アジアの叡知会議」と題されています。叡知というのはやはり生かしていただきたいと思います。つまり、経済についてはどこでも今話題になっているので、新聞でもテレビでもインターネットでも雑誌でもやっているわけですから、ここはもっと長期的な文化の話をするのが本当ではないかなと思うのです。

ところで97年の8月にインドが独立50周年を迎えました。私はその頃にインドに行っておりましたけれども、98年の1月はスリランカがやはり独立50周年記念でチャールズ皇太子が来たという話です。ほかのアジアの多くの国々は植民地から独立して50周年というのをこの数年で迎えているわけであります。日本もアメリカ占領後50周年というのがもうすぐ来ます。日本もヨーロッパ列強、アメリカの支配を免れたわけではなくてやはり占領の経験があります。それからもちろん日本も朝鮮半島、台湾、そのほかを植民地化しまた占領いたしまして、これも50周年以上が経つわけであります。

こういう節目の時にアジア各地でいろいろな人たちと会いますと大きな関心が2つあることに気づきます。一つはもちろんこの近代、植民地化の近代というものをさまざまな局面からもう一度洗い直してみる、こういう研究が、あるいは問題関心が非常に深く広がっていることに気がつきます。もう一つは植民地以前の、あるいは近代以前の状態はどうだったかということについての非常に大きな関心が今アジア諸国にあります。例えばシンガポールでも植民地以前のシンガポールあるいはシンガポールをめぐる社会的、国際的或いは地域的関係というものはどうだったかというようなことで、改めて時代を洗い直すような関心が生まれているとのことです。と同時に、そこに常に現在の世界の動き、あるいはアジアの動きとの関連において問題をとらえようという気持ちが非常に強く存在していて、その点では歴史との対話というのは現在と歴史との対話、その対話も2つのタイプがあるということであります。

インドの50周年記念は97年の8月15日でした。その時にインドの雑誌とか新聞とかを見ていましたら、独立は喜ばしいことではあるけれども、この50年にインドは何をやったかというと、アシス・ナンディ氏に怒られるかもしれませんが、世界で8番目の汚職大国になったと。7番目までは一体どこかとは書いてなかったです(笑)。インドは非常に礼儀正しいから、日本のことが1番目に出てくるかと思ったら書いていなかったのでほっとしました(笑)。8番目とはどういう基準なのか今でもわかりませんが、その記事にはそう書いてありました。

それと私は去年も東南アジア、スリランカ、それからトルコまでアジアを旅行しましたけれども、トルコでも汚職問題、政界、官界、財界の腐敗、これが最大の問題点になっています。もちろん日本もそうです。するとこの50年で何をやったかというと、これはインドネシアもそうだし、あらゆるアジアの国々は政財官をめぐる汚職とか腐敗とか、そういう問題がトップ記事になるような状態を迎えているというのは、これは一体何かと私は思うのです。「汚職文化」なんて言っているわけにもいかないですし。ただこれは私の考えでは戦後50年の、あるいは独立後50年で発展してきた上台の社会政治経済システムというものが、何らかの形でいわば壊れたと言いますか、新しい世界の動きに対処できなくなったあらわれではないかと、それが汚職とか腐敗とかいう形であらわれているのではないかと思うのです。そういう問題も一つあります。ちょっと

 

 

 

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