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した。大手企業と政府官僚の癒着で道徳が退廃し、この癒着構造にメスを入れるべきだという意識が高まっています。政府官僚と、大統領一族が経営する企業のような一族経営企業との間の争いについては実に激しい議論が行われており、国益なのかスハルト氏個人の利益なのか、全く区別がつきません。こうした状況では、民主主義であれなにであれ、国家のトップにいる悪質な人間や強欲な人間をチェックする体制が必要です。たった一人の人間への依存度はますます高まるばかりです。制度面が麻痺しています。これを食い止める必要があります。そのためには民主主義が必要なのです。

 

●李

今、ナンディさんの出された問題は、非常に大事な点の一つだと思います。かつて開発独裁論というのがあって、政治的な独裁権威主義というのが経済発展に役に立つのだという議論が長い間あって、その主な例として、東アジアNIESが引っ張りだこになったりしたわけですけれども、それが今や破綻したのではないかという議論になっているのですが、政治的な権威主義、独裁が経済発展と選択的親和性があるという議論もある意味では非常に乱暴な議論で、もっと細かく見てみないといけないのです。それと同じように、民主主義がすべてそれぞれの政治共同体を守り、福祉を保障し、経済発展もさらに保障できるのかどうかというと、これも多分一言では言えないだろうと思うのです。

今の韓国の議論の構図を一言だけ申し上げたいと思うのですが、例えば不思議なことに今、IMFから突きつけられているさまざまな韓国にメすする改革の条件であるとか、課題というのが、私が記憶している限りでは金泳三政権が5年前にできた時に、政府系のシンクタンクを含めて、いろいろ出された改革の中にほとんど入っているのです。細かいことはいろいろな事例がありますけれども、つまり財閥というものが非常に、一時期有効だったかもしれないけれども、膨大な非能率と無駄を伴っているのだということは、健全なエコノミストであればすぐにわかるのです。競争力においても問題があります。その財閥を「専門的な大企業」という言葉で表現されていましたが、それそれ主力の競争力を持つ分野に分割していく、そういうのが必要だという議論であるとか、あるいはそれと併行して中小企業を質的に強化するとか、金融監督機能を中立的自立的なものにするとか、ほとんどの課題がその時代に出されて、金泳三氏も最初はそれをやる気でいたわけですけれども、彼自身経済をよくわからなかったという点もありますし、まだ不幸にも韓国の経済が円高の反射利益でかえって繁盛しましたので、危機意識が一気に薄れて、改革が完全に後回しにされて、ほとんど手がつけられなかったということ、そのつけが回ってきているわけなんです。

それを考えますと、政治的民主化だけの話ではなく、それと連動していわゆる経済的な民主化というのでしょうか、経済そのものに対してより多くの人が政策決定過程に参加できるというシステムというものが、もし韓国においてもう少し早く導入され、部分的に実現されていたならば、ダメージは今よりかなり違った様相になってきたのだろうというのはよく耳にする議論であります。想定上の話だけなので、過去を美化しすぎるのかもしれませんけれども、それは確かに言えると思います。ややこしいことに、台湾を見ると、政治的には民主化されていませんけれども、経済自体が中小企業、もともとそれは別の要因によって結果的に財閥中心、権力集中的なものではなくて分散的になり、その結果、柔軟性を持ち、いろいろな意味で弾力的に対応できる強さを持つというのは、今、台湾で実証されているわけです。そういうものを見ると、単純に政治的な民主化如何、有無によって経済の繁栄とか、競合とかが導き出されるとは思いませんが、少なくともかなりの高い相関関係で政治的な民主化と経済的な民主化というものが、危機に対する対応においても非常に大きなファクターになると思いますし、そういう意味では午前中、山崎先生が近代化が徹底していないのが、今、危機の一つの背景だとおっしゃたのも、私はそういう文脈で十分理解できる部分があるのではないかと思います。

 

●座長:パカセム

民主主義と経済の安定、経済発展とを単純に同一視することはできません。それは最近の研究が示しているところです。日米の学者による共同研究の報告書「アジアの民主化」では、非常に興味深い分析がされています。結論を一言で申し上げれば、国民が選出した政府がマクロレベルでは民主主義を意味しない、というものです。ミクロレベルでは、その下に数多くの独裁権威的な勢力が見られます。インドは自分たちの国が世界で最も民主主義が発達した国家であり、世界で最も選挙政治が貫徹した国家であると考えています。しかしミクロレベルではそうではありません。興味深いことに、インドではアジア的様式を持つ三つの政治体制に分かれています。軍部主導体制、独裁権威体制、そしていわゆる複数政党制に基づく民主主義体制です。そこから出てくる結論は、最終的な解答ではありません。国民が選出した政府が民主主義的になれば、経済の安定が進むというのは、真実ではありません。これが、米国とアジアの学者がまとめた優れた共同研究の報告書「アジアの民主化」です。大変示唆的な報告書の一つです。

 

 

 

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