私の発言の趣旨は、自分の身は自分で守る必要があるということではなく、同等の権利身分を有する一員として自己の強化を図る必要がある、ということです。21世紀には、ヨーロッパ経済ブロック、アジア経済ブロック、アメリカ経済ブロックの三つの経済ブロックが出現します。アジア諸国の経済活動が現在も地域レベルでなく個人レベルなのに対し、北米諸国は強靭であり、ヨーロッパ諸国は次第に強大になっていきます。それゆえ、アジア諸国は自らの立場を強化する必要があります。そこにはアジア諸国の金融破綻の解消も含まれます。私は、大国や超大国も批判されるべきだと思います。
我々が大国を批判した場合、大国は如何なる防衛策を取るでしょうか。アジアには主張が必要です。アジア人は内気すぎます。このことは何の疑問もなく受け入れられています。お気づきのように、NBCやCNNの番組に登場する解説者はいずれも金融の専門家です。アングロ・サクソンばかりで、マスメディアにアジア人の顔が登場することはほとんどありません。アングロ・サクソンが即席のアジア専門家になります。これはどうしたことでしょうか。
●川勝
お2人のやりとりを聞いていますと、山崎先生が3つの対立項を挙げられましたけれども、やはりもう一つ重要な対立項がある。それは、グローバライゼーションとアメリカナイゼーションというのが違うということであります。今、リードさんがヨーロッパにはヨーロッパのナショナリティがあって、それはアメリカとは違うもので、それはアジアにも役に立つと言われました。グローバライゼーションというのは恐らく山崎先生の言葉で言えばモダナイゼーションである。グローバライゼーションないしモダナイゼーションと、アメリカナイゼーションというのが違って、アメリカナイズすることを拒むことが必ずしもアジアの伝統に回帰するとか、あるいは国民国家に回帰するとか、あるいは日本流の製造業に回帰することにならないで、独自のグローバルスタンダードヘの貢献になるという意味合いが入っているというふうに考えられます。
ですからここで4つ目の対立項として、特にビッグパワーのアメリカナイゼーションと、そしてグローバライゼーションという対立項を挙げたいと思います。これはパックスブリタニカ、パックスアメリカーナ、パックスジャポニカというふうな、そういう考え方を拒否するものになるだろうと思います。すなわちパックスブリタニカ、パックスジャポニカ、パックスアメリカーナというのは、ある意味では中華主義的な一極中心的な見方です。しかし、これからは多極分散的なものに変わっていく可能性がある。そのことは恐らく白石さんがパックスジャポニカということについて、強い留保を付されたことと関係しているかと思うのですが、それがいわゆるグローバルなソサエティーを形成する一つの示唆になっているかもしれないと思いまして、対立項を一つ、付け加えていただきたいと思います。
●アシス・ナンディ(インド、デリー社会開発研究所主席研究員)
この質問はモハマド氏にも答えていただきたいと思います。わたしの質問は特殊なものです。私は経済学者ではありませんし、今回危機に喘いでいるアジアの国に住む者でもないからです。私の出身国は、現在世界経済への統合へ向けた第一段階に入ろうとしています。私の質問はこうです。東南アジア諸国の自己防衛は、今後の将来の問題としてではなく、これまでの過去において、十分に行われてきたといえるでしょうか。東南アジアに現在よりも強力な民主主義体制があり、アジアの人々が世界銀行や国際通貨基金、経済企画機関や金融機関などの公共機関を中心とする政策決定過程への直接的な参加手段を持っていたとしたら、東南アジアの自己防衛はもっと進んだものとなっていたと言えるでしょうか。
●モハマド
東南アジアの地域内貿易が世界の貿易高と比べて非常に小さい規模のものであることは、否定できない事実だと思います。中心として機能するものが全くなく、パックスアメリカーナが存在せず、国民国家の衰退が全面的とはいわなくともある程度まで進んでしまった現在、我々はどのような地域秩序を模索すればよいのでしょうか。その地域秩序の基盤となるものは何でしょうか。この問題についてもう少しコメントをお伺いしたいと思います。
現在よりも民主主義体制が進んでいたとしたら、東南アジア諸国はうまく生き残れていたかというご質問です。答えは然りであり否です。シンガポール人であれば否と答えるでしょう。シンガポール人は、シンガポールを集約型自動車部品で組み立てられた国家にするほど清潔な独裁権威主義の政治を求めています。微笑まず、なにも欲しがらないのです。真に社会を構成するものは清潔な政治、清潔な道路、清潔なタクシーです。しかしインドネシアでは、問題は民主主義の確保です。今回の危機が発生した際、我が国では、この資本主義にはやはり多くの問題があると気づき始めま