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その場合に経済の自由競争の中ではこれは両方一度に走りますから、そうなってくると、圧倒的に金融のほうが経済的効率性が高くて、つまり利益は製造業から金融業に収奪されているように見える。これと、さっき言ったアメリカ対アジアという対立項目をくっつけますと、ますます具合が悪いイメージが浮かんでくる。

今、実際にそういう議論の立て方は、ヨーロッパにもあって、ご存じだと思いますけれども、“ル・モンド・ディプロマティック”という雑誌は、第4次世界大戦と言っているわけです。アメリカの一人勝ちだと言う。残りの国から全部収奪して、しかも軍事的にも一極中心だと非難する。しかしこういう議論は少し粗雑なので、3つの層における対立がそれぞれどういうふうにお互いに絡み合っていて、どこから解きほぐせばいいのかという、もう少し精密な議論があったほうがいいような気がします。これはこの場所についての批判ではなくて、世界一般の世論に対する私の批判です。

 

●白石

私の今日の問題提起というのは、あくまで山崎先生の整理ですと、第2の問題、つまり私はそれも世界市場と国民国家の問題というよりは、むしろ地域的な政治経済秩序の問題を議論の対象にしています。ですから当然のことながらアメリカの生活様式と、アジアの生活ということを議論するつもりもありません。

これは違う話であります。

それから、金融と製造業の問題というのは、これは第3のレベルですけれども、これはあります。これはやはリアジアにおいて、安定圏というものをつくらなければならないという時の一つの前提になっている発想は、お金というのは、別にお金だけの世界で済む話ではないと、やはりお金の中には長期のお金が必要な部分というのがあって、人づくりであるとか、物づくりというのは、長期にお金を安定的に供給しないとできない話だおっしゃると、それが製造業の問題や何かに一番密接につながっている。だからその問題は先生のおっしゃるとおりあります。これは私は直接には議論の対象にしませんでしたが、それは恐らく後のセッションで議論されるのだろうと思ったからであります。

ただ、今、これとの関連で一つ申し上げますと、今はどうなったか知りませんけれども、つい2ヵ月ほど前にはタイの株式市場に上場されているすべての企業の総額がアメリカのコカ・コーラ社よりも安かったということがありました。それはやはりどこか妙な話で、地域秩序そのものをもう一度再構築しないと片づかない問題ではないだろうかと思っています。

 

●座長:パカセム

世界銀行の最新の報告書「Private capital Flow(民間資本の移動)」では、アジアで金融業が製造業に遅れをとっていることが非常にはっきりと指摘されていると思います。アジア各国はいまも苦しんでいます。その意味で、米国は優れた斬新な金融工学を備えています。これが米国が世界経済をリードしている理由です。米国企業の上位50社は、世界最大の資本基盤を持っています。技術基盤を持っています。世界が広く開かれれば、米国企業が経済競争で優位な地位に立つことは間違いありません。それゆえ世界銀行は、アジアでは金融業の強化が必要であるという結論を出しました。アジアの金融業は、劣悪な企業統治、ネットワーク、古い企業体質、政府補助金をあまりにも多く受け継いでいます。アジア諸国は金融業の健全化を図り、競争力をつける必要があるでしょう。アンソニー・リードさん、お願い致します。

 

●アンソニー・リード(オーストラリア、オーストラリア国立大学アジア太平洋研究所東南アジア史教授)

自分の身は自分で守るという考え方について申し上げます。我々は傷を負い始めています。この傷はますます悪化するものであり、自分で身を守らなければなりません。ギンゴナさんはある種の貿易圏について語られ、アジア諸国はアジア地域内貿易を拡大し、対外的には関税の引き上げを、アジア地域内では関税の引き下げを行うべきだというお話しをされました。円のような通貨、あるいは円ブロック、あるいはアジア通貨の必要性を説いておられます。私がこの問題の経済的な側面を全て把握しているふりをせずに率直にお伺いしたいのは、たしかにアジア通貨の導入は極めて理解しやすい関係であるとはいえ、果たして現段階で効果的な方策であるかどうか、という点です。アジアが金融システムの改革を行わないまま、円ブロックやアジアブロックを作った場合、東京や大阪のウォール街からの支配が米国のウォール街からの支配よりも快適であると言えるかどうか。改革を必要としているのは、自存自営よりむしろ世界金融システムではないでしょうか。ヨーロッパの事例は魅力に富んだものであるとはいえ、ヨーロッパ経済地域全体が同じように魅力に富んだものであったとはいえないと思います。壁はむしろ政治的な目的です。たしかに壁を作ることでヨーロッパには平和な状態が生まれます。しかしそれは、別段世界金融システムや現在の情勢から我が身を守るためのものではありません。

 

●座長:パカセム

 

 

 

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