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事の面で言えば、日米安保再定義というのが21世紀まで構造的な力として存在するということ、これがある意味ではアジア太平洋地域の背骨としての保障かもしれない。

しかしながら他方、政治的な活動を見ますと、APEC形成の途上で、クリントンは首脳会議をつくる時に、アメリカ主導というのを打ち出そうとしたけれども、必ずしもうまくいかない。スタートは日本やオーストラリアという番頭格のような国がやりだしたけれども、日豪が中心になり続けるわけでもない。むしろASEANという比較的若い新しい力に主導権を渡して、ASEANとその他の国というふうに主催地を必ず2年に1回ASEANにするということによって、ASEANに拒否権を与えるような運営を認めた。必ずしもアメリカ主導ではない。そうしますと、今までのようにパックスブリタニカやパックスアメリカーナが上から枠をつくるのではなくて、地域の中小国グループにある発言権、機会を得ている。

500年というお話は海と陸とのうち、これまでの中国権力は常に陸にあった。そしてそれに対して今ではチャイニーズネットワーク的な経済活動が海のほうに東南アジアを巻き込んで高まる。その海のほうが今後優位性を持つのではないかという含みだと思います。それらを合わせますと、今後の秩序形成、そこにおける中国や、あるいはアジアの役割というのをどういうふうにおっしゃろうとしているのかを白石先生に伺いたいと思います。

 

●座長:パカセム

パックスアメリカーナとパックスブリタニカについてたくさんのことをお話しいただきました。パックスジャポニカについては如何ですか。あと25年程すれば、あなたも90歳代です。パックスジャポニカのことも語っておかなければいけません。低金利は問題となりません。貯蓄は全て米国にまわし、米国の赤字を援助すれば、パックスジャポニカは現実のものとなります。この手で実現したいものです。

 

●白石

私の頭脳の中に非常に強烈な歴史的教訓が一つ、焼きついていまして、恐らく日本はアングロサクソンには絶対楯突かないほうがいいのだという一種の教訓がございます。だからパックスジャポニカというのはもう考えないということなんではないかと思います。

ただ、それが本当にいいのかどうかというのは非常に疑問になってきている。それはどういうことかというと、私は五百旗頭先生のお話に正面から答えることはできません。むしろそういうアイデアがあるのだったらぜひ教えてください。私はまだ模索して、いろいろなことを考えていますけれども、これで何か答が出るのかなと、そういうことはまだ見つかっていないのです。

ただ、正直に申しまして、今、私が非常に心配しておりますのは、現にアジア、ここでは韓国、それからタイ、インドネシアですけれども、そのほかの国も随分危機になっている。大変な危機です。そこに今のところ、日本政府と日本の銀行は金だけ突っ込んでいます。その金の額というのは、先ほど言いましたようにものすごい額の金です。アイデアなしに突っ込んでいます。

仮にこういう状態が数年続けば国内政治的に持ちません。日本の国民に対して、2兆円の所得減税と、2兆円をインドネシアに渡して、それは1週間後には消えているかもしれないよと、どっちにしますかと言われたら、日本人ははやはりそれは所得減税のほうがいいと言いますので、これは持ちません。

そうすると、日本は本当にこれから国際的にどういうふうに生きていくのかという非常に深刻な問題にぶつかることになります。だからそういう認識はありますけれども、それではこうやればいいということは今のところ、私はわかりません。

 

●山崎正和(東亜大学大学院教授・劇作家)

2日間のご討議のために、ちょっと問題点というか、対立項の整理をしておいたほうがいいと思うのです。現在、アジアをめぐる諸問題をまず、アメリカ対アジア、あるいはアメリカ的生活様式対アジア的伝統生活、というふうにとらえる人がいます。これも一つの項目です。

もう一つは、つまり普遍的、合理的な金融市場対国民国家という対立項目があります。その際、第1項目と第2項目を普通、結びつける人が多いのですけれども、そうすると、これは一見筋が通っているように聞こえるのです。つまリアメリカという政体は、比較的透明性、合理性が高く、論理的である。一方、市場経済というのはそういう性質を備えているから、金融市場経済の勝利即アメリカの勝利であると考えたくなる。確かに現実を見ていると、IMFとアメリカとの関係は非常に密接です。しかしジョージ・ソロスは果たしてアメリカの利益と直結しているのだろうか。だからこの2つは別の対立項なんです。

もう一つあります。それは金融と製造業です。世界的に金融による経済と、製造業による経済とは別次元で動いていて、例えば日本は製造業において強いが、金融業においては弱い。アメリカはその逆だと言われています。

 

 

 

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