点から見ると、非常に不均等な国際関係のあらわれあるいは遺産であるというふうに言えるかと思うのです。中華帝国という途方もない大きい帝国の秩序があって、アジアにおいてはこの帝国がまだ完全にヨーロッパのように解体されて、均等な国家システムに移行されていない。もっと長いタイムスパンで見ると、私たちはその移行の過程にあるのかなという感じもしますが、ある意味ではその遺産として残っているものであって、もちろんそれが相互依存の有効な媒体として機能するのは、ある意味では未来志向的なものかもしれませんが、一方では過去の中華帝国的な秩序を引きずっているものでもあるということを考えますと、それをただアジアのものだというように固定的に認識するよりは、それからより均等な、平等な国際関係に移行していくか、そういうプロセスでものを見る必要があるのではないかと思います。
●座長:パカセム
グローバライゼーションがアメリカナイゼーションと同じものであるとすれば、アジアとは何なのでしょうか。アジア地域の住民、アジア人はこの問いにどう応えるべきでしょうか。ヨーロッパには少なくともヨーロッパ連合があります。1999年にはユーロ通貨が導入されます。自分たちの経済活動を行うために、もはや万能薬のドルに依存する必要はないのです。ヨーロッパに独自の統一通貨が生まれます。これに対し、アジア諸国の経済はいまだにLACUで動いています。アジアには統一通貨が存在しません。円がその役を買って出るでしょうか。マハティール氏が、シンガポールドルをアジアの貿易通貨にすべきだと言っています。それだけで十分でしょうか。必要なのは、アジアの統一通貨をつくることです。しかしこれは自然にできるものではありません。
●白石
グナワン・モハマドさんと李さんにそれぞれ1点ずつ反応をしたいと思います。反論というよりもむしろ反応です。
まず第1点は、これは実はグナワンのコメントを聞きながら、私のプレゼンテーションの中では十分に説明しなかったなと思つたことなんですけれども、恐らくグローバライゼーションあるいはアメリカナイゼ一ションということと同時に、今、非常に重要なことは、国際社会の性格そのものが非常にはっきりと変わりつつある。その結果として実は、英語で言いますと、“structural Power”と言うのですけれども、構造的な力、これは国家が掌握しているような力ではなくて、むしろ構造的に存在するような力、例えばお金がどういうふうに集まったり流れたりするか、あるいは情報というのがどういうふうに生産され、流れていくのか。あるいはどういうタイプの知識が価値のある知識として生産され、分配されていくのか。そういう構造的な力の生産と分配において、国家が持っている役割というのが非常に小さくなっている。
だからその結果として、私は先ほどアメリカンヘゲモニーの時代というのは本当に今、終わりつつあるのではないかと申し上げましたが、ではその時にそれは何らかの新しいパワーヘのヘゲモニーの移行という形で起こっているのではなくて、むしろ国家そのものが少なくとも過去200年ぐらい持っていた力というのが次第に低下しているということを、やはり考えていかなければならない。それが非常にはっきり今度の問題で出たということなんだろうと思います。
それから、第2点、これは李さんのコメントに対する反応で、おっしゃるとおり名称というのが極めて政治的なものであります。それは「アジア」という言葉についても同じことで、私が実はアジアと申します時には、そこには私なりのいわばヒドンアジェンダがございます。ただ、今日は政治提言の場ではないと思いましたので、そういうことは申し上げませんでしたが、ちょっとだけ申し上げますと、私はやはり戦後50年、アメリカがつくりあげた秩序というのは、これはアジアの秩序ではなくて、アジア太平洋の秩序である。日本はその中に埋め込まれている、韓国も埋め込まれている、東南アジアも埋め込まれている。これを壊すというのは馬鹿げている。だからアジア太平洋という枠はもう受け入れましょうと、だけどもその中で恐らく我々は一種の“zone of stability”、つまりこれは実はECがヨーロピアン・マネタリー・システムというものをつくりあげた時の発想がそうなんですけれども、通貨の安定圏のようなものをつくらないとやっていけないと、そういう意味でのゾーン・オブ・スタビリティというものをやはりつくる必要があるだろう。そうでないと、現在のようにアジアの経済の中に日本の経済が埋め込まれている時に、日本の国益一つ考えてももうできなくなっている。だから私がアジアと言った時にはもちろんそういう極めて政治的な発想を持っていますけれども、それは必ずしも帝国の再建を意味するもではないというふうにも思っております。
●座長:パカセム
新しいアイデアが出てきました。アジアの通貨ゾーンというか、アジアのそういった通貨経済を含めての安定のゾーン、プーン・オブ・スタビリティということが出てきたのですが、何かコメントはございますか。