日本財団 図書館


論争というのは50年代のアメリカの援助の論争を見ると明らかになっています。つまリアメリカの援助をもって国家主導で工業化を進めたりするということはけしからんというのは、アメリカでずっと議論をしておりますから、そういうものが冷戦期に展開されていて、社会主義という対立物がなくなった時に、その政略結婚が解かれて、より純粋な資本主義的な部分、自由民主主義的な部分というのがより前面に出てきて、アメリカ自身も容赦なくその部分で以前の政略結婚の相手をたたき始めたと、そういう色彩が確かにあるのではないかと感じます。

延長して考えますと、今現在問われているのは民主化か、権威主義なのかという対立ではないと、技術的プロセスをどう処理するのかという問題だとおっしゃるのですけれども、例えば今度の経済危機、これは政治体制を超えて起きているわけです。いわゆる民主化が一番進んだと言われている韓国においても、あるいは一定の民主化が見られたタイにおいても、ほとんど見られないインドネシアにおいても同時に似たような形で起きていて、そういう面では政治体制と無関係ではないかという主張があり得ると思いますが、しかし少なくとも経済危機に対する対応、あるいはこれからの展開においてはこの政治的な民主化のプロセスの度合い、これが大きく影響してくるだろうという感じがします。

隣にインドネシアの友人がいますので、あまり批判的なことは言えませんが、ある意味では政治的な権威の正当性というものが遅れているインドネシアにおいては経済危機がすぐ政治的危機に発展し、しかも人種的な危機にまで二重、三重の危機に発展していくというのが、今現在私たちが見ているところであります。現在、もし韓国の大統領があの民主化の闘士であり拉致事件の主役である金大中さん、自ら「40年間、労働者は私の同志であった」と公言をしてはばからない金大中さんではなくて、全斗煥であったり、あるいは盧泰愚であったりした場合には、インドネシア以上に韓国はすでに内戦状態に入っていただろうと想像するわけであります。これは別に言い過ぎではなくて、大量の首切りに伴う経済のリストラクチャリングのために、政治的権力がどの程度正当性を認められているかということが大きな分かれ目になり、そういう面からすると、民主主義というものがアメリカから押しつけられたからと全否定されるべきものではなくて、依然として民主化というものが大きな課題であり、これから大きな尺度として機能するのではないかと思います。

また、さらにテクニカルプロセス、つまり中央銀行がどのように有効に機能するのかとか、あるいは国を超える投機的な資本の無差別な動きというものをどういうふうに、いわゆる続制を持たせるのかという問題、これはかなりの部分はテクニカルな部分ですけれども、すでに世界的な潮流として、政治的な民主化、それが政治であれ、経済であれ、意思決定過程により多く参加しようとする、そういう意識が高まっている、そういう状況の中では、テクニカルプロセスそのものもある意味では民主主義の文脈において議論されるようになるであろうし、あるいはされるべきだと言っても過言ではないと思うのです。

ヨーロッパ統合においてもよく問題になりますが、プリュッセルに集まっている有能な官僚たちがヨーロッパ全体の未来を見据えて、最も効果的な形で資源を配分したり、政策を決定したりするというのが、一方の技術的有効性の観点からは十分理解できるけれども、しかしそれぞれヨーロッパに属している人々からすると、自分の選挙によって選ばれていない完全なテクノクラートが自らの運命を左右するような決定を下すということが、やはり政治的には大きく問題になってくるということになります。アジアの経済危機に関して言いましても、韓国でよく言われているのは、一番振り回されているのはもちろんウォールストリートなどの資本家たちですけれども、しかしムーディーズであるとか、いわゆる格付け機関というのがあり、韓国政府、国民からすると、自分が選挙で一回も選んだことのない、そういう人々が韓国という国の運命を左右するような、もちろんそれなりに客観的な基準があるのでしょうけれども、3Aからいきなり3Bとか、何段階も上がったり、下がったりする、振り回されてたまるものかという、ある種のナショナリスト的な反応が非常に大きいものがあって、それを拡張して言えば、例えば格付け機関の中においてどのように民主主義を確保するのかという問題が出てくるのだろうと思うのです。

最後に、私は主に戦後の歴史を勉強しておりますので、150年以上になるとスケールが大きすぎることになりますが、一点だけ申し上げますと、この150年の単位で見ても、アジアに独特のチャイニーズネットワークというある種の独自のネットワークがある。独自の国際関係があったのだというご指摘はそのとおりだと思いますが、私はそれも裏返して言えば、それはチャイニーズネットワークなわけです。この150年あるいはこの何百年続いたアジアにおけるチャイニーズネットワークというものも、ある一つの国際政治の観

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION