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ていたり、あるいは山崎先生のお話では“アジア太平洋”あるいは“環太平洋共同体”というものが概念化されたり、現実の国際政治においては、どの言葉を使うかというのはそれぞれの国の国益あるいはさまざまな利益が絡んだ非常に鋭い対立物であるということをもう一度ここで私は注意を喚起したいというふうに思います。

主催者の意図は、もちろんこういうネーミングは仲良くしようという意図だと思いますが、現に私たちが今現在、なぜアジアという言葉にこだわるのか、あるいは前面に出すのかということを考えた場合にも、その問題をきちんと念頭に置いておくべきだというふうに考えます。

次の話にも関連すると思いますが、韓国においても非常に顕著であり、日本でも徐々に高まっておりますが、現在のIMF経済危機に対してある種のナショナリスティックな反発、感情などが高まっているというのは否定できないと思うのです。いろいろな方が繰り返しおっしゃっているように、今、グローバライゼーション、グローバルスタンダードというふうに言われているほとんどが、本当はアメリカナイゼーションで、アメリカンスタンダードではないのかという反発であります。

私はそれはある意味ではそのとおりだと思うのです。しかしそれに対抗するために、ではアジアンバリューであるとか、それに対峙するものとしてのアジアといった場合に、果たしてそれが何を意味しようとしているのか、その場合のアジアの価値あるいはアジアンウェイであるとか、そういう言葉、その時のアジアというものが誰のアジアなのか、誰のためのアジアなのか、誰の何のためのアジアなのかというものをやはり考えなければならないのではないかという意味で、最初、言葉の問題に少しこだわったわけであります。そうしないと、アジアの価値、これは午前中のセッションで山崎先生が非常に明快に整理してくださったように、私たちがアジアといった場合には、その中にはそれなりの普遍性を持っておりますし、それと表裏一体となった特殊性というものがあるだろうと思いますけれども、普通的な部分というものが、不当にもアジアとアメリカナイゼーション、グローバライゼーションはアメリカナイゼーションというふうに、矮小化して定義しすぎると、その対立物としてのアジアという概念がより偏狭なものになっていく危険性を感じるからであります。

以上を前置きとしておきまして、次に白石さんの話の中で二、三点、少し絡めてお話を具体化していきたいと思います。

最初、50年のタイムフレームで、これはアメリカの冷戦戦略の中において秩序づけられたアジアである、そういう観点からすると、自由民主主義の勝利というふうに定義したくなるのも理解できなくはないけれども、実態はそれではないというお話だったように思います。確かに私もそのとおりだと思いますけれども、しかしもう少し敷衍して考えるべきことは、これは現在の転換点という認識に基づいてお話ししますと、白石さんは今問われているのは、そういう民主主義対権威主義であるという問題ではなくて、もっと技術的なプロセスが新しく加わったものとして理解すべきなんだというお話だと思いますけれども、その点でも私の理解では冷戦期のアジア、アメリカの覇権のもとでの秩序といった場合にも、それはアメリカから見ると、アジアとのある種の妥協の時期だったというふうに、例えば一般的に言われているアメリカの覇権、20世紀初めから明らかになるいろいろな考え方、構想がありますが、その構想というのは一言で言うと自由民主主義で、市場経済だと思います。その結合体、それが言ってみれば世界を救うという確信に満ちたものがアメリカンヘゲモニーの中核となる価値観だと思います。

そのビジョンをもって世界を変えていこうという使命感に燃えたのが、この20世紀、アメリカの時代ということになりますが、その場合に、明らかに対立物が2つあって、要するに左の一方ではレーニン主義、社会主義というものがあり、もう一方、右のほうにはファシズムというのを控えておりましたので、その2つの強力な敵の資本主義に対する挑戦に対抗するためには、資本主義そのものをある種改良したものとして、アメリカンシステムというものがあって、これはもっと狭い範囲で言うと、ニューディールであるとか、ある種の社会民主主義的部分を取り入れた国家主導の資本主義というものがアメリカンシステムだと思いますけれども、そういうビジョンを世界に持ち込もうとした時に、ヨーロッパは割とそれに近い形で展開できました。しかしアジアではより地盤が弱いといいましょうか、環境が整わなかったということで、いろいろな面で妥協して、つまり冷戦期に見られたさまざまな国の開発独裁というものと、アメリカはある意味では不承不承それを受け入れて政略結婚をしたということなんです。

言い換えますと、逆にそのアジアの国々は自らの事情があるので、アメリカ的な民主化と、自由化、それに基づく近代化というものをとりあえず部分的に受け入れながらも、それをアジアンウェイで、ある種の独裁体制と共存させる形で受け入れたと、その実際の政策

 

 

 

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