は私はアメリカに行った時に教科書に使った本で、田中優子さんの翻訳でもう出ておりますけれども、どうも過去500年くらいのスパンで見ると、アジアには3度、大きな商業の時代があった。最初はリードさんが書いておられる商業の時代である。これは大体17世紀の初めぐらいに終わります。次に19世紀の後半から20世紀の初めに2度目の商業の時代がある。これはイギリス帝国主義の時代です。第3番目の商業の時代というのは、大体過去15年ぐらいであります。
では、それぞれの時代に何が起こったか。経済はもちろん非常に活発になった。だけれども、中国を見ると、第1の商業の時代に明が崩壊する。そして海賊が跳梁する。第2の商業の時代は中国が半植民地化する時代である。ということは、商業の時代というのは、すべてが豊かになって、万々歳ということにならない。むしろ政治的に言うと極めて不安定化する可能性が大きい。特に中国はそうです。
そういう長期の歴史のリズムの中で現在の危機も考えなければいけないだろうということです。
では、これからどうなるのだろうというと、もちろんよくわかりません。ただ、唯一言えるのは、グローバライゼーションということが最近、ほとんどまじないの言葉みたいにして言われますけれども、ひょつとして今、我々が見ているのはこれからますますグローバライゼーションが進んでいく時代なのか、それともひょっとするとグローバライゼーションというのが「あの時は語られたよね」というふうに言われる、いわばグローバライゼーションの一頓挫を示しているのか、そういう歴史の分け目にあるのではないかというふうに思います。
●座長:パカセム
いまのお話の中で一番興味深かった時代は、過去50年間だと思います。米国主導型のグローバライゼーション、世界のアメリカナイゼーシヨンと言われているものにも匹敵する時代に思われます。このグローバライゼーシヨンは、米国、国際通貨基金、世界貿易機関などによって推し進められてきたものです。貿易、科学技術、投資の自由な移動が行われ、ついには世界規模の金融市場が出現するに至っています。大量の資金の流動があったかと思うと、今度は逆流しました。流れは資金で流れ返る洪水となり、アジアは漂流しています。多くのアジア人にとって、こうした洪水は青天の霹靂でした。我々は皆苦しんでいます。過去50年間についてのただいまの議論は、極めて興味深い結論だと思います。続きまして、インドネシアからご出席下さいました最初のコメンテーターの方から、お話しを賜りたいと思います。
●グナワン・モハマド(インドネシア、情報普及研究所所長)
白石さんは、様々な問題に対して常に独自の新鮮なアプローチの仕方をしてこられました。白石さんの論点は、アジアにおける政治・経済秩序の構造を的確に理解するためには、50年、150年、500年という少なくとも3つの時間の尺度で物事を考えなければならない、という点にあります。
こうした論点を、私は従来のアジアに関する議論の中では寡聞にして知りません。不幸にして、私は歴史家ではありません。私は、長期的な展望に立って物事を視る訓練を全く受けていないジャーナリストです。ジャーナリストにとって、とりわけ私のように、勤務先の新聞社が政府によって発禁処分を受けてしまった者にとって、ケインズが残した有名な格言は、全ての事柄に応用できるもの、様々な問題に取り組む際にあてはまるものです。ケインズは、長い目で見れば、我々は皆この世からいなくなってしまう、と語りました。これはとりわけ疑う余地のない事実です。本日、私はインドネシア国内の視点からお話をさせていただきたいと思います。
現在のインドネシアは、国土に山積する問題も、ともに膨大です。過去最悪の事態となった今回の経済危機でインドネシアが被った犠牲は、算定不可能なほど大規模なものです。私が先日お会いしたある会社の幹部の方は、インドネシアではもはや年間計画の実施が不可能になってしまったと、説得力ある口調で語っていました。来月もまだ会社を続けられているかどうかは誰にもわからない、というのです。極めて長期的な展望をもった人物は、スハルト大統領ただひとりではないかと思います。スハルト大統領は、自分のインドネシア統治が永遠に続くものと考えています。現在の危機は、インドネシアがどう評価されているかをよく示しています。
先程パカセムさんが述べられましたように、変動しやすい性格かはともかくとして、アジア諸国は、歩調の早い金融市場である国際社会の舞台に新たに登場したプレーヤーを相手として対決していく必要があります。国際通貨基金の裏舞台でアジア経済の緊急救済措置を計画している米国のローレンス・サマー通商次官の発言を援用すれば、金融市場の役割は、もはや経済成長の歯車の潤滑油をつくることではありません。金融市場そのものが経済成長の歯車なのです。今後、勝者と敗者を決定するのは金融市場であるようです。勿論、この発言にはアメリカ的な価値観が強く働いています。